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切手はどこへゆく 第二十八話

どさっと大きな音を立てて、日記帳を置いた。その風圧で真っ白な封筒が少し動いた。動いたところで、切手が出てくるわけではない。 意味が分からなかった。手紙は、切手がないと届かないらしい。じゃあ、この切手のない手紙は、どうやって家に届いたのか。誰かが直接、郵便ポストに入れたのか。翠からの手紙だから、翠しか考えられない。でも、翠は山梨にいるはずなのに。どうして。 机の上に放り投げていた携帯電話を手に取って、翠に電話を掛けた。7コールかかっても、翠は電話に出なかった。 はあ、と大きくた

    • 切手はどこへゆく 第二十七話

      どのくらい時間が経ったのか、考えるのを忘れるくらいに翠と話を続けていた。話す頻度が減っても、顔が見えていなくても、ずっと話をできるのは、翠しかいないんじゃないだろうか。お互いくだらない話で笑い合ったあと、翠が唐突に話を変えた。 「そういえば、遥夏ちゃん、手紙書いてくれた?」 「あ~……手紙……」 「絶対書いてないでしょ。返事待ってるのに。」 翠に不意を突かれて、わたしはたどたどしい返事しかできなかった。翠のむくれた顔が、頭に浮かんできた。ちらりと、机の上の日記帳を見た。日記帳

      • 切手はどこへゆく【第二十六話】

        菜々と別れて、自転車をこぎ始めた。 予備校とか、進学塾とか、今まで派手な色だな、としか思っていなかった看板が、こんなに自分の身近なものだとは。文字としてだけ認識していたそれが、情報になってわたしを襲ってくる。駅前は情報量が多い。ため息が出そうだった。 派手な看板から目をそらして、自転車をこぎ続けた。 高校受験をしたときは、どうしてたっけ。受験勉強をろくにしていなかったわたしを見かねて、母が、翠のお母さんに相談したとか言っていた気がする。それで、翠の通ってた塾に入れさせら

        • 切手はどこへゆく 第二十五話

          鉄板はいくらきれいにしても、また次のお好み焼きを焼き始めると、焦げ付いてくる。 追加注文したお好み焼きも食べ終わり、制限時間が迫ってきたが、誰も話が尽きる様子はなかった。真凛の「デザートを食べたい」という声に全員が反応し、バニラアイスが届くのを待っていた。 もう鉄板の出番がないことはわかっているし、きれいに鉄板をきれいにするのは、店員さんに任せればいいだろう。なのに、わたしの手はへらを手放さなかった。今すぐ逃げ出したいわけではないけど、ちょっとした逃げ場のある安心感が欲しかっ

        切手はどこへゆく 第二十八話

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        • 切手はどこへゆく
          28本

        記事

          切手はどこへゆく【第二十四話】

          体育館を出て、駐輪場に向かった。 駐輪場につくと、わたしの自転車以外に置いてあった自転車が、数台なくなっていた。どうやらみんな、打ち上げ会場に向かったらしい。 ほんの10分間くらいで、自転車も、誰かの声も聞こえないくらい、みんなは学校から離れたらしい。そんなに打ち上げしたかったのか。いつもなら部長が、駐輪場で誰かを捕まえて話していそうなのに。 自転車に鍵を差し回すと、がちゃんと音がした。自転車を引き出してサドルにまたがったところで、目的地がわからないことに気付いた。

          切手はどこへゆく【第二十四話】

          切手はどこへゆく【第二十三話】

          もう引退しているはずなのに、土曜日に学校にいくのが、なんだか不服だった。 部長からの「部室の片付けを土曜にして、みんなでそのまま打ち上げしよう」というメッセージを、わたしが見逃して、みんなが盛り上がっていたから、文句のひとつも言えなかっただけだけど。 不服な感情が、行動にも表れてしまったようで、寝坊した。はあ、とひとつため息をついて「遅れます」と連絡をした。あくびをしながら伸びをして、洗濯物の山の一番上にあったジャージを着た。わたしが自転車にまたがった時間は、みんなとの集

          切手はどこへゆく【第二十三話】

          切手はどこへゆく【第二十二話】

          ゴールを見つめている後輩の瞳に、光はなかった。どこにも焦点はあっていないし、体が動き出す気配も感じられなかった。この姿は、かつてのわたしだ。わたしのせいで負けた、そう思った時のわたしだ。 なにか言葉をかけなければ、そう思った。後輩に伝える言葉なんて、なにも思いついていない。ただ、このままにしてはいけない。その思いだけが、わたしの足を、後輩へと動かした。 「……あの、さ……」 なんとも歯切れの悪いわたしの声に気付いた後輩が、こちらを向いた。瞳は、近くで見ても、やはり光はなか

          切手はどこへゆく【第二十二話】

          切手はどこへゆく【第二十一話】

          練習は、あくまで練習なのだと、思い知らされたのは、高校生活最後の試合の日だった。 二回戦目で当たった高校は、ベスト8常連の強豪校だった。対戦表が発表された時から、ここが山場になると、予想はついていた。 対戦相手は、今まで公式戦では戦ったことはなかった。試合をしていなくても、噂話は入ってくるし、大会で試合の様子を見ていれば、強いチームだということはわかる。だからこそ、最後の最後まで、練習は怠らなかった。 試合が近づくにつれ、頭の中には中学の最後の試合が浮かんだ。わたしがシ

          切手はどこへゆく【第二十一話】

          切手はどこへゆく【第二十話】

          蒼太さんはこの前と変わらず、切れ長の穏やかそうな目をしていた。 小さく会釈するわたしを見て、優しく微笑んだあとに、古谷の方をちらっと見て、少し不思議そうな顔をしていた。 古谷を見ると、愕然とした表情をしていた。人の顔を見て、いきなり「え?」は失礼だろう。愕然としたいのはこっちの方だ。 蒼太さんの前で失礼なことをするなんて。一言言ってやりたい気持ちもあったが、蒼太さんの前で文句を言うところを見せたくない。わたしは一人、心の中でせめぎ合っていた。 「稲村、俺先行くわ」 古

          切手はどこへゆく【第二十話】

          切手はどこへゆく【第十九話】

          三上の提案に乗ったわたしと古谷は、自転車を押しながら駅前まで歩いた。三上は、古谷の自転車のかごに荷物を載せて、ずいぶん身軽な様子だった。 「チャリ通、楽でいいよなあ。電車乗らなくていいし。」 「電車乗らなきゃ行けない高校選んだの、自分だろ。」 「お、なんだ喧嘩売ってんのか?」 はあ、とわざとらしい古谷のため息が聞こえた。また二人のふざけた会話が始まったので、黙って横を歩くことにした。 「ま、こっちの方までの定期あれば、遊べるしちょうどいいんだよな。あと偏差値もちょうどよか

          切手はどこへゆく【第十九話】

          切手はどこへゆく【第十八話】

          古谷と三上は、わたしに聞かせているのか、自分たちで盛り上がっているのか、わからないくらいの雰囲気で、思い出話を始めた。古谷が部活を辞めたいと思っていた時に、三上は部活を辞める、とは思わなかったが、同じように先輩が好きじゃなかったらしい。 というか、同級生の大半は、先輩とそりが合わずに、辞めるか続けるか、みたいな話を頻繫にしていたとか。 ほとんどは、文句を言いながらも続けていく中で、本気で辞めようとしたのが古谷だった。古谷の本気に、周りがどうしよう、と様子を伺っている時に、

          切手はどこへゆく【第十八話】

          切手はどこにゆく【第十七話】

          古谷を待つまでの間、わたしと三上はそれぞれ、ウォームアップをしていた。 脱げないように靴ひもをきつく結んで、アキレス腱を伸ばしてみたり、部活前よりは、緩めの準備をしていた。 三上も準備体操が終わったのか、シュート練習をしていた。男子とバスケをするのも、久々かもしれない。 高校に入ってからは、体育の授業も部活も、男女別で行われることがほとんどで、古谷とは中学生以来だ。三上にいたっては、体育館の隣のコートで練習してるところを見たことしかない。 そんな二人と、わたしは一体な

          切手はどこにゆく【第十七話】

          切手はどこへゆく【第十六話】

          今日は、良い天気だった。 窓から入る日差しのせいか、いつもより多く寝たからか、いつもの日曜日より早く目が覚めた。二度寝をしてもよかったけど、二度寝をするには目が覚めすぎている気もしたので、起きることにした。 ベットから出て立ち上がったまま、大きく伸びをしてから、部屋を出た。部屋を出てリビングに向かおうとすると、キッチンからほんのり甘い匂いがしてきた。 「遥夏、ちょうどよかった。一つ味見してくれない?」 母はそういうと、キッチンに置かれた皿を指さした。皿にはクッキーが置か

          切手はどこへゆく【第十六話】

          切手はどこへゆく【第十五話】

          学校が休みの日の部活は、いつもより時間が長いけどあっという間だ。 空腹が通り過ぎた頃に部活は終わり、体育館の隅っこで、後輩たちがモップ掛けをするのを眺めながら、ストレッチをしていた。 今日は、悔しい思いをした。 最高のタイミングで来たボールを、シュートした瞬間に、後輩に弾かれてしまった。いままで簡単に入れられていたはずなのに、あのタイミングで弾かれたこともなかったはずなのに。 なぜ決められなかったのか、その原因を頭でずっと考えていた。体の動きも悪くなかったはずだし、シュー

          切手はどこへゆく【第十五話】

          切手はどこへゆく【第十四話】

          携帯電話を机に置いて、明日の準備でもしようと立ち上がったところで、通知音が聞こえた。 画面を見ると部長からで、同い年の部活のメンバー全員あてに、ご丁寧に明日の練習予定が送られてきた。 2年生がどうとか、1年生がどうとか、部長の聞いてよオーラ全快につづられた文章はスルーして、練習予定の中に、試合の文字があるかだけを確認して、画面をオフにした。 部長みたいに誰と合う合わないとかが、まったくないわけじゃないけど、部活をやるうえではそんなに気にならなかった。 明日の部活ではどんな試合

          切手はどこへゆく【第十四話】

          切手はどこへゆく【第十三話】

          三人で並んで校門を出てから、三上は古谷に、藤崎さんの話をした。古谷はあまり興味なさそうに話を聞いていて、それに気づいたのか気づいていないのか、三上は時折、古谷を茶化していた。 それに対して、古谷がいちいちむっとした表情をするので、どうやら三上はそれが面白いらしい。三上がだんだんと饒舌になっているのが、ぼんやり話を聞いていたわたしでも、気づくくらいだった。 「そういや、藤崎って、高塚とも仲良かったな。」 「そうなの?」 「あ、稲村も知らない? ふたりとも吹部で、よく話して

          切手はどこへゆく【第十三話】