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切手はどこへゆく 第二十五話
鉄板はいくらきれいにしても、また次のお好み焼きを焼き始めると、焦げ付いてくる。
追加注文したお好み焼きも食べ終わり、制限時間が迫ってきたが、誰も話が尽きる様子はなかった。真凛の「デザートを食べたい」という声に全員が反応し、バニラアイスが届くのを待っていた。
もう鉄板の出番がないことはわかっているし、きれいに鉄板をきれいにするのは、店員さんに任せればいいだろう。なのに、わたしの手はへらを手放さなかった。今すぐ逃げ出したいわけではないけど、ちょっとした逃げ場のある安心感が欲しかった。
「おまたせしました。バニラアイスです。」
店員さんの声が聞こえて、みんなの会話が少し止まる。テーブルに置かれたバニラアイスは、ガラスの器まで凍っていた。へらからスプーンに持ち替えて、アイスを食べ始める。
「いや~もう打ち上げも終わりかあ。」
バニラアイスを食べながら、部長が言った。菜々と真凛はうなずきながら、わたしは黙って、バニラアイスを食べていた。
「このあとどうする?どっか行く?」
部長が楽しそうに話し続けた。真凛が少しバツの悪そうな顔をしながら、口を開いた。
「あ~ごめん、あたしこの後、塾ある。」
「まじかあ。真凛、忙しいねえ」
ごめんごめん、と言いながら真凛はアイスを食べた。いいよいいよ、と言いながら部長もアイスを食べていた。
「なんか、こういうの増えるよね、きっと。みんな、ばらばらになっちゃう……寂しっ」
「ええ~、そういうこと言わないでよ、まじで寂しいじゃん」
部長はそう言いながら、スプーンを真凛に向けた。お行儀が悪い、と言いそうになったが、『そういうことじゃない』と言われそうで、言うのはやめた。
「すみません、お時間過ぎているので、お会計をお願いいたします。」
店員さんの声に、みんながゆっくりと、帰り支度を始めた。
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