「イタズラと文通」

 晴れた空の下。縁側で揺れる風鈴の音色を耳にしながら、手紙を書いていた。宛先は遠くの国でいる最愛の人。数日前、彼は外国に行った。彼の仕事柄何ら珍しくはない。

 いたずら好きの貴方のことだから、きっと向こうでも色々やるのでしょう。でも程々にしてくださいね。もし会社の人から連絡が来たら殴り飛ばしに行きますからね。

 そんな内容を書いたあと、封筒に入れてポストに投函した。

 彼はイタズラ過ぎだから、これくらいしないといけない。

 数日後、彼から手紙が来た。イタズラはしていないらしい。本当なのか? そんな事を思いながら、読み進める。どうやら三日後には帰国出来るそうだ。

 三日後、ラジオから流れる内容を聞いて、冷や汗が吹き出た。彼が乗っていた便が事故にあったというのだ。

 一瞬、耳を疑った。しかし、発車便と時間帯が手紙に書かれているものと同じだ。

 夢だ。夢に決まっている。夢であってくれ。夢。夢。夢。絶望感が波のように押し寄せてきた。

 冷や汗が止まらない。視界が定まらなくなってきた。するとインターホンが鳴った。

 無気力な足取りでゆっくりとただ、ゆっくりと玄関まで行く。草履を履いて、戸を開けた。

「よっ!」
彼がいた。目を疑った。何度も目を擦った。しかし、どこからどう見ても彼だ。

「な、なんで」

「悪い! 嘘ついた! 実は一つ前の便に乗ってたんだ! ドッキリさ!」

「ばか! おばか! 事故にあったかと」
 私は彼の厚い胸元を殴った。

「事故? どういう事だ?」

「さっきラジオであなたが乗るって言っていた便が事故にあったって」

「そうか。それは」
彼が申し訳なさそうな顔をした。

「でも良かった」
 私は彼の胸元に顔を埋めた。

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