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Elder Bias(エルダーバイアス)。超高齢者へのケアの質は低い

📖 文献情報 と 抄録和訳

若年層と比較した高齢者の病院での治療経験について

📕Elliott, MN, Beckett, MK, Cohea, C, et al. The hospital care experiences of older patients compared to younger patients. J Am Geriatr Soc. 2022; 70( 12): 3570- 3577. https://doi.org/10.1111/jgs.18003
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※ Connected Papersとは? >>> note.

🔑 Key points
🔹75歳以上の入院患者は、55-74歳の患者よりも悪いケア体験を報告しており、これは入院環境に特有である可能性がある。
🔹最も大きな違いは、医師や看護師とのコミュニケーション、投薬、退院計画に関するものである。
🔹高齢の入院患者に対して質の高い患者中心のケアを保証するために、ベストプラクティスを実施すべきである。

[背景・目的] 病院は、若い患者よりも高齢の患者に対して、より良い患者体験を提供できない可能性がある。

[方法] 4358病院の2019年HCAHPSデータを用いて,75歳以上の患者と55~74歳の患者の19項目のケア経験について患者ミックス調整後のHCAHPS調査スコアを比較し,年齢層と患者および病院特性との交互作用について検証した。入院患者の経験について観察された年齢パターンを、2019年メディケアCAHPS(MCAHPS;非入院者への調査?)調査の全体的経験についての回答者におけるパターンと対比させた。

✅ HCAHPS調査スコアとは?
・PX→「患者(住民)がケアプロセスの中で経験する事象」と定義
・HCAHPSとは、Consumer Assessment of Healthcare Providers and Systems (CAHPS)は、米国Agency for Healthcare Research and Quality (AHRQ)が中心となり開発され、世界で最も広く使用されているPX尺度
・CAHPSには複数のバージョンが存在し、病院の入院患者を対象とする汎用的PX尺度として、Hospital CAHPS (HCAHPS)が開発された
・日本語版もある:HCAHPS日本語版は、AHRQおよびCenters for Medicare & Medicaid Services (CMS)の承認のもと、日本ホスピタルアライアンスとの共同研究によって開発され、日本での計量心理学的特性が検証されている。

🌍 参考サイト >>> site.

[結果] 75歳以上の患者(HCAHPS全回答者の31%)は、HCAHPSの実質的な19項目のうち18項目について、55~74歳の患者(回答者の46%)よりも肯定的な体験が少ないと報告した(平均差-3.3%ポイント)。HCAHPS のトップボックススコアにおける年齢差は、看護師のコミュニケーション 3 項目中 1 項目、医師のコミュニケーション 3 項目中 1 項目、投薬に関するコミュニケーション 2 項目中 2 項目、退院時情報 2 項目中 1 項目、ケア移行 3 項目中 2 項目で大きく(5 ポイント以上)、また、看護師のコミュニケーション 3 項目中 1 項目、医師のコミュニケーション 3 項目、投薬に関するコミュニケーション 2 項目、退院時情報 2 項目、ケア移行 3 項目中 2 項目で小さかった。一方、MCAHPS では、75 歳以上が若年層と同じような経験をしたと回答している。

[結論] 75歳以上の患者は、55-74歳の患者に比べて、特にコミュニケーションに関する指標で、あまり肯定的な経験を報告していない。このような違いは、入院患者ケアに特有のものである可能性がある。高齢患者に対する病院スタッフのコミュニケーションの有効性については、さらなる研究が必要である。若い患者向けに設計された病院のプロトコルを、高齢患者のニーズに合わせて調整する必要があるかもしれない。また、外来患者における高齢患者との交流から学ぶ機会もあるかもしれない。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

これ、歯に衣着せずにいうと『すごく分かる!』。
医療者全般に言えることだと思うが、患者との関わりにおける安心感(≒ 油断)と年齢は正の相関を認めると思う。
つまり、90+の高齢者であるという情報を見たとき、なぜだか「ホッとする」のだ。
あるいは、50歳代であるという情報を見たとき、なぜだか「身が引き締まる」のだ。

この現象は、なんなのだろう。
直感的に思うのは「批判的吟味」の度合い。
若年者であるほど、不合理な事象に対して、批判的な目で見て、それを実際の訴えにつなげる場合が多いのではないだろうか。
一方、超高齢者の場合には、その批判的吟味力が、そこまで強くないだろう、と思えるから安心するのか。
とにかくも、そのようなバイアスがあることは確からしい。
この、高齢者への治療に対して油断しやすいバイアスを『Elder Bias(エルダーバイアス)』と名付けたい。

以前、特にコミュニケーションにおいて高齢者に無礼になりやすい『エルダースピーク』があることを報告した文献の抄読をした。

今回の文献においては、エルダーバイアスがコミュニケーションだけではなく、治療/ケアの全般において影響を及ぼしていることを明らかにした。
そして、大事なことは、高齢者はそれを認識しているということ。
そうなのだ、分かっているのだ(アンケートに答えているわけなので)。
ただ、出力しないだけで。
それに安心していていいのだろうか?
人が見ているから、ゴミを拾うのか!?
それは、違うだろう。
環境を綺麗にしたいから、ゴミを拾うのだろう。
患者さんに少しでも良くなってほしいから、良い治療やケアを提供するのだろう。
真価は、自分自身の保身度はなく、患者への貢献にあるのではないか。
だったら!
矢印を内に向けている場合ではない。
しっかりと、外部に貢献しよう。
エルダーバイアスは、確かに存在する。
だからこそ、目の前の担当患者が高齢であればあるほど、『意識的に』良質で善良な治療を、ケアを、提供するように心がけよう。

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