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運動への意欲。『腸内細菌』が高める

📖 文献情報 と 抄録和訳

マイクロバイオーム依存的な腸-脳経路が運動へのモチベーションを制御する

📕Dohnalová, L., Lundgren, P., Carty, J.R.E. et al. A microbiome-dependent gut–brain pathway regulates motivation for exercise. Nature (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-022-05525-z
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[背景・目的] 運動は健康な生理機能に対して様々な有益な効果を発揮する。しかし、運動に対する個人のモチベーションを制御するメカニズムは、まだ十分に解明されていない。競技やレクリエーションでの運動は、運動による脳内神経化学物質の変化によって引き起こされる長時間の運動から得られる快感が、運動意欲を高める重要な要因であることが分かっている。本発表では、運動中のドーパミンシグナルを増強することによって運動能力を高めるマウスの腸と脳のつながりを発見したことを報告する。

[方法-結果]

実験①:運動意欲の関連要因の1つは『腸内細菌』である
・8種類の異なる遺伝形質を持ったマウスをランダムに掛け合わせて得られた雑種マウス199匹の自発的、強制的運動能力を調べ、検出される差と相関する要因を、ゲノム、代謝物、そして腸内細菌叢と相関させている(自発運動では、ほとんど動かない怠け者から、2日で40km動き回る個体まで差が出来るらしい)。
・この要因を調べると、驚くことに遺伝要因との相関はほとんど認められないが、なんと細菌叢との相関が強く認められた。そこで、抗生物質を投与して細菌叢を除去すると、運動量の差がほとんどなくなった。

実験②:腸-脳連関のメカニズム解明
(1). 運動量の差の原因を脳細胞のsingle cell RNA sequencingを用いて探り、運動により高まる線条体のドーパミンの維持に細菌叢が関わることで、運動への意欲を高める働きがあること、そしてドーパミン量の維持に関わる分解酵素の運動時の抑制が、細菌叢により維持されるため、ドーパミンレベルが高く保たれることを明らかにした。
(2). 細菌叢から線条体へのシグナル経路を探り、TRPV1陽性感覚神経を介してシグナルが線条体に伝わり、ドーパミン分解酵素のレベルを下げ、ドーパミンのレベルを上げることを突き止めた。
(3). TRPV1神経が同時に発現している大麻受容体CB1に細菌叢から分泌される脂肪酸アミドが結合し、TRPV1を刺激してドーパミンレベルを高めることを突き止めた。

[結論] これらの知見は、運動の報酬特性が腸管由来の相互受容回路に影響されることを示し、運動パフォーマンスの個人間変動にマイクロバイオーム依存的な説明を与えるものである。また、腸管由来の信号の脳への伝達を刺激するインターセプトミメティック分子が、運動に対するモチベーションを高める可能性があることも示唆された。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

近年、腸内細菌に関連する研究報告が爆発的増えてきている。
疼痛との関連(📕Shiro, 2021 >>> doi.)、加齢との関連(📕Saccon, 2021 >>> doi.)、骨格筋運動適応との関連(📕Valentino, 2021 >>> doi.)、変形性関節症発症との関連(📕Yu, 2021 >>> doi.)・・・、etc。
その中でも、今回の論文は注目に値する論文だ。

運動の意欲の舵は、腸内細菌が握っている

入院中の患者さんの運動意欲がなかったとき、
(なんだよ、頑張れよ)
という感じで、直感的には根性論に傾倒しがちではなかろうか。
しかし、今回の結果の中でとくに衝撃的だった「ほとんど動かない怠け者から、2日で40km動き回る個体まで差が出ていたものが、腸内細菌を除去すると差がなくなった」という結果から考えてみると、
(食事や精神的なストレスの影響で、腸内細菌が少なくなっているのかな)
と、性格論/根性論 → 論理的な原因論に転換することができる。

見る側のそのような変化は、その後の行動変容につながる。
根性論の場合には、「いやいや、やらなきゃ良くならないんだから、頑張りましょうよ」と、ただ精神に鞭を打つような関わり方になりがちだ。
一方で、論理的な原因論の場合には、「栄養士と相談して、食事内容を見直してみますね。あと、言語聴覚士と相談して食形態や飲み込みの練習など、栄養面の改善に努めてみます!」と、精神的介入ではなく、より具体的な行動変容を伴った介入になってくる。
今回の研究から鑑みれば、後者のほうが鍵穴に対する鍵を挿せていると思う。

自分自身について思いを馳せれば、
(今日はなんだか運動したくないな。自転車じゃなくて、車で行こうかな)
と思ったとき、それはやる気の問題ではなく、腸の問題かもしれない。
(そういえば昨日、ポテチとカップラーメン食べたな。あれミスってたんだ。今日からはやめよう)
不毛な精神論に走らず、建設的な原因解決に向かうための行動変容。
それを引き起こすために必要な1つのもの。
『知』。

あらゆる考案工夫も発明発見も、
ただ知識の堆積の中から生まれるのだ

本多静六

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