見出し画像

股関節形成不全の寛骨臼・骨頭被覆の評価方法12選


📖 文献情報 と 抄録和訳

股関節形成不全における寛骨臼蓋被覆の特徴の性差とは?

📕Funahashi, Hiroto, et al. "What Are the Sex-Based Differences of Acetabular Coverage Features in Hip Dysplasia?." Clinical Orthopaedics and Related Research® 482.11 (2024): 1971-1983. https://doi.org/10.1097/CORR.0000000000003126
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar 🌲MORE⤴ >>> Connected Papers
※ Connected Papersとは? >>> note.

[背景・目的] 発育性股関節形成不全(developmental dysplasia of the hip: DDH)による変形性股関節症を予防するために、遠心性回転臼蓋骨切り術が行われる。 十分な臼蓋被覆率を得るためには、DDHにおける臼蓋被覆の特徴を理解する必要がある。 しかし、DDHの男性における臼蓋被覆の特徴は不明のままである。 臼蓋被覆における男女差は、男女間の骨盤形態の差に関連している可能性があると考えた。
■ 目的:(1) 変形性股関節症の女性と男性における寛骨臼被覆面積の違いは何か? (2) 変形性股関節症の女性と男性における腸骨と坐骨の回旋の違いは何か? (3) 変形性股関節症の女性と男性における各高さでの腸骨と坐骨の回旋と寛骨臼被覆面積の関係は何か?

[方法] 2016年から2023年の間に、当院で遠心性回旋臼蓋骨骨切り術を受けた患者は114名(138股)であった。Tönnisグレード2以上、外側中心縁角25度以上、骨盤や大腿骨の変形を認める患者は除外し、最終的に100名(122股)が対象となった。女性患者(98例)の年齢中央値(範囲)は40歳(10歳~58歳)であり、男性患者(24例)の年齢中央値(範囲)は31歳(14歳~53歳)であった。全例の術前AP像とCTデータを使用した。AP像でクロスオーバーサイン、後壁サイン、骨盤幅指数を評価した。軸位面上の恥骨結合の回旋は、CTデータにおいて2つの異なる高さ、具体的には上前腸骨棘を通るスライスと恥骨結合および坐骨を通るスライスで評価した。さらに、寛骨臼前方および後方のセクター角を評価した。各患者における女性と男性の寛骨臼測定値および寛骨臼被覆率測定値に関する変数の比較を行った。骨盤形態測定値と寛骨臼被覆率の相関関係は、女性と男性で個別に評価し、その結果を比較して性差を特定した。連続変数についてはスチューデントのt検定を、二値変数についてはフィッシャーの正確検定を用いた。p値が0.05未満の場合は統計的に有意であるとみなした。

■ 股関節形成不全の寛骨臼・骨頭被覆の評価方法12選

①左: クロスオーバーサイン (Crossover Sign)
・寛骨臼の前縁と後縁がレントゲン上で交差して見える現象を示している。このサインは、寛骨臼が後捻している可能性を示唆する。
・具体的には、前縁と後縁が交差することによって、寛骨臼の形態異常が確認される。
②中: 後壁サイン (Posterior Wall Sign)
・寛骨臼の後壁ラインが大腿骨頭の中心より内側にある場合、このサインは「陽性」とされる。
・これは、寛骨臼の後部カバーが不足していることを意味し、寛骨臼後捻の一因となる可能性がある。
③右: 骨盤幅指数 (Pelvic Width Index)
・骨盤幅指数は、図中で示されるA/Bの比として計算される。
- A: 腸骨稜の最外側点から骨盤の中心線までの距離。
- B: 坐骨の最外側点から骨盤の中心線までの距離。
・この指数は骨盤の形態を評価する指標であり、後捻の程度を評価するために用いられる。

④左: 上腸骨翼角 (Superior Iliac Wing Angle, SIA)
・上前腸骨棘(Anterior Superior Iliac Spine, ASIS)の内縁と仙腸関節前縁を結ぶ線と、水平線との交点で形成される角度を指す。
・この角度は寛骨臼の上部構造の回旋状態を示し、骨盤の回旋異常や骨盤形態の評価に利用される。
⑤中: 下腸骨翼角 (Inferior Iliac Wing Angle, IIA)
・下前腸骨棘(Anterior Inferior Iliac Spine, AIIS)の前部と腸骨後部を結ぶ線と、水平線との交点で形成される角度を示す。
・この指標は骨盤下部の形態を評価し、特に寛骨臼の下部回旋や形態異常に関連する。
⑥右: 坐骨恥骨角 (Ischiopubic Angle, IPA)
・恥骨結合上縁と坐骨棘を結ぶ線と、矢状面の交点で形成される角度。
・坐骨の回旋状態を示す指標であり、骨盤の下部構造における異常や寛骨臼被覆の不均衡を反映する。

⑦A: 寛骨臼傾斜角 (Acetabular Inclination)
・大腿骨頭中心を通る冠状面において、寛骨臼の上縁と下縁を結ぶ線と水平線との間の角度を示す。
・この傾斜角は、寛骨臼蓋の傾きの程度を評価し、股関節安定性に関連する。
⑧B: 上部寛骨臼セクター角 (Superior Acetabular Sector Angle)
・大腿骨頭中心から寛骨臼の縁までを結ぶ線と水平線との交差で形成される角度。
・寛骨臼の上部被覆を評価する指標であり、蓋の量を定量化するために用いられる。
⑨C: 寛骨臼前捻角 (Acetabular Anteversion)
・大腿骨頭中心を通る水平面で、寛骨臼の前縁と後縁を結ぶ線が矢状面と作る角度を測定する。
・前方の被覆がどの程度前方に回転しているかを示し、寛骨臼後捻(Retroversion)や過剰前捻(Over-anteversion)の診断に有用である。
⑩D: 前方および後方セクター角 (Anterior/Posterior Acetabular Sector Angles)
・大腿骨頭中心を通る水平面で、寛骨臼の前方および後方の被覆をそれぞれ独立して評価する角度。
・前方被覆角(Anterior ASA)と後方被覆角(Posterior ASA)のバランスは、寛骨臼の形態異常や関節の負荷分布に関連する。
11;E: 多層セクター角測定 (Multilevel ASA Measurements)
・大腿骨頭中心から上下に5mmごとのスライスで前方および後方セクター角を測定し、寛骨臼被覆のプロファイルを作成する。
・この方法により、各高さでの被覆の変化を詳細に評価できる。
12;F: 3次元モデル (3D Model)
・各スライスのセクター角を基に作成された寛骨臼被覆の3次元モデル。
・この図では、特に後方および前方セクター角の空間的分布を視覚化している。

[結果] AP 撮影の評価では、臼蓋後捻の指標であるクロスオーバーサインに男女差は認められなかったが、後壁サイン(女性 46% [98 例中 45 例] 股関節 対 男性 75% [24 例中 18 例] 股関節、OR 3.50 [95% 信頼区間 (CI) 1.20 ~ 11. 71;p = 0.01)および骨盤幅指数が56%未満(女性1% [1/98] 対男性17% [4/24]、OR 18.71 [95% CI 1.74~958.90]; p = 0.005)は、女性よりも男性でより頻繁に発生した。腸骨回旋パラメータに差は認められなかったが、恥骨では男性の方が外旋が大きいことが示された(女性30°±2°、男性24°±1°;p < 0.001)。寛骨臼のカバー率については、前方寛骨臼角において男女間に差は認められなかった。一方、後方寛骨臼角では男性の方が女性よりも値が小さかった(85° ± 9° 対 91° ± 7°;p = 0.002)。女性では、腸骨回旋と寛骨臼角(前方寛骨臼角:r = -0.35 [95% CI -0.05 to 0.16]; p < 0.001、後方寛骨臼角:r = 0.42 [95% CI 0.24 to 0.57]; p < 0.001)との間に相関関係が認められた。同様に、坐骨回旋は両方の寛骨臼角と相関関係を示した(前方寛骨臼角:r = -0.34 [95% CI -0.51 to -0.15]; p < 0.001、後方寛骨臼角:r = 0.45 [95% CI 0.27 to 0.59]; p < 0.001)。したがって、女性では、外側腸骨筋の回転と坐骨の内部回転が、前方の寛骨臼被覆の増加と後方の被覆の減少と相関していることが観察された。一方、男性の寛骨臼被覆は腸骨筋の回転と相関を示したが(前方の寛骨臼角:r = -0.55 [95% CI -0.78 to -0.18]; p = 0. 006、後部寛骨臼角:r = 0.74 [95% CI 0.48 to 0.88]; p < 0.001)との相関関係が認められたが、坐骨回転との相関関係は認められなかった。

[結論] 男性では、臼蓋後捻は女性よりも多く発生し、臼蓋後被覆の減少が原因である。女性では、臼蓋後被覆の増加は坐骨の外旋角度と相関していたが、男性では、坐骨回旋と臼蓋後被覆との間には相関は認められなかった。男性のDDHを遠心性回旋臼蓋骨骨切り術で治療する際には、後臼蓋被覆の不十分を防ぐために骨片を調整することが不可欠である。今後の研究では、さまざまな肢位における男性と女性の後臼蓋被覆の違いを調査し、骨片の回転方向を考慮する必要があるかもしれない。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

抄読部分が長文となったので、考察は短めに。
股関節形成不全の寛骨臼・骨頭被覆の評価方法には、たくさんの方法があって、難しい印象があった。
今回の抄読研究は、その結論もさることながら、測定方法を美しい図でしっかりと示してくれた。
これは、研究ベースだけではなく、臨床ベースでもとても参考になった。
個人的に、特に参考になったのは知ってはいたがぼんやりした知識だったクロスオーバーサイン、後壁サイン。
しっかり測って、しっかり解釈し、しっかり治療に生かしていきたい。

評価することが、創造することなのである
よく聞きなさい、あなたがた創造する者よ!
評価そのものこそ、この世で高く評価され珍重される宝にもまさる宝である
評価によってはじめて価値が生じる
評価がなければ、存在の胡桃はうつろであろう
よく聞きなさい、あなたがた創造する者よ!
もろもろの価値の変化
ーそれは創造者が変化するからである
創造者になる運命を持った者は、常に破壊せずにはやまない

ニーチェ ツァラトゥストラ

⬇︎ 関連 note & 𝕏での投稿✨

○●━━━━━━━━━━━・・・‥ ‥ ‥ ‥
良質なリハ医学関連・英論文抄読『アリ:ARI』
こちらから♪

↓↓↓

‥ ‥ ‥ ‥・・・━━━━━━━━━━━●
#️⃣ #理学療法 #臨床研究 #研究 #リハビリテーション #英論文 #文献抄読 #英文抄読 #エビデンス #サイエンス #毎日更新 #最近の学び

この記事が参加している募集