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日常生活動作中の股関節接触力の経路


📖 文献情報 と 抄録和訳

人工股関節全置換術における股関節接触時の力の経路は、患者や日常生活動作によって異なる

📕Lunn, David E., et al. "Hip contact force pathways in total hip replacement differ between patients and activities of daily living." Journal of Biomechanics (2024): 112309. https://doi.org/10.1016/j.jbiomech.2024.112309
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[背景・目的] 人工股関節全置換術(total hip replacement, THR)におけるインプラントの不具合や再置換手術の主な原因のひとつは、無菌性のゆるみであり、これは日常生活動作(activities of daily living, ADL)中に寛骨臼カップと大腿骨頭の接触面で生じる摩耗粉の蓄積が原因であることが多い。しかし、特定のADL中のこれら2つの表面間の接触力の経路については、限られた情報しか得られていない。本研究では、筋骨格モデリングにより、寛骨臼カップ上における股関節接触力の経路の方向を推定することを目的とした。

[方法] 132人の人工股関節置換術患者を対象に、歩行および非歩行の日常生活動作(ADL)中のモーションキャプチャ分析を行った。逆動力学解析を用いて接触力の経路を計算するために、筋骨格シミュレーションを行った。そして、患者間およびADL間の接触力の経路の違いを定性的に比較した。

[結果]
■ 股関節にかかる力の接触経路①

この図は、股関節全置換術後の患者が様々な動作(歩行、速歩、階段上り、階段下り)を行った際の、股関節にかかる力の接触経路を示している。図の中心に描かれているのは、人工股関節の寛骨臼カップにおける平均的な接触力の軌跡であり、動作ごとに異なる色で示されている。

歩行や速歩では、接触力の軌跡が「8の字」型を示し、寛骨臼の前上部(図の上部右側)に力のピークが生じた。
・一方、階段の上りや下りでは軌跡が円形に近づき、接触力が寛骨臼の後上部(図の左上側)にかかる傾向があった。

■ 股関節にかかる力の接触経路②

図は、非移動系の活動(椅子からの立ち上がり、椅子への座り込み、スクワット、ランジ)における股関節接触力の経路を示している。各活動ごとに異なる接触力の軌跡が寛骨臼カップ上で記録され、動作ごとに色分けされている。

・これらの活動では、接触経路が線状になっていることが特徴的であり、動作中に力が寛骨臼の後上方から後下方にかけて広がっている
・特にランジ(緑)の経路は、他の動作に比べてより広範囲に広がり、股関節にかかる負荷が大きくなることがわかる。

■ 股関節にかかる力の接触経路③

この図は、THR患者が異なる日常動作を行う際の股関節接触力の経路を示している。それぞれの動作に対する個別の股関節接触力の経路と平均的な経路が示されている。

[結論] 歩行では典型的な8の字パターンとなり、ピーク接触力はカップの上前方部分で発生した。立ち上がり、座り込み、しゃがみ込みなどの非運動活動では、より直線的な形状となり、カップの上後方部分全体にわたった。その結果、接触力の経路の形状と位置には患者間で大きなばらつきがあることが分かった。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

例えば、トレンデレンブルグ兆候を認めているとする。
その時に「どこの筋力、筋出力が弱くなっていると思う?」と後輩や、実習生に聞く。
すると、「中殿筋」や「股関節外転筋」といった答えが返ってくる。
それに対して、「どうして、そう思ったの?、力って目には見えないよね」と聞くと考え込んでしまう。

それくらい、当たり前に、無意識に、僕たち(特にリハビリセラピスト)は力を『推測』している。まるで、目に見えているかのように。
だが、よく考えれば当たり前のことなのだが、力は目には見えない。
ただ単に、目に見えている関節運動と、地球上の原理原則(力学法則)に則って推測しているだけだ。
そんな目には見えない力だが、特に関節内の関節接触面のどこに、どう力が加わっているか、は分からない。

今回は、そんな股関節接触力について、日常生活動作中の軌跡を明らかにした。
大きな結果としては、歩行と非歩行における股関節接触力が生じる軌跡は大きく異なるということ。
これは、今回のTHR者を対象としたカップ摩耗を防ぐためのヒントにもなりうるが、変形性股関節症の重症化を防ぐための重要な情報にもなり得ると思っている(そのためには手術前患者のデータ収集も必要だが)
まだ明確な出力先は分からないが、このような股関節接触力の特徴がある、ということは頭に入れておきたい。

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