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体幹トレーニング。腰痛を鎮める4領域の効果

📖 文献情報 と 抄録和訳

腰痛に対する運動制御エクササイズの効果とメカニズム:叙述的レビュー

📕Xu, H., Zhang, Y., & Zheng, Y. (2023). The effect and mechanism of motor control exercise on low back pain: a narrative review, EFORT Open Reviews, 8(7), 581-591. https://doi.org/10.1530/EOR-23-0057
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar 🌲MORE⤴ >>> Not applicable

[レビュー概要] 腰痛(Low back pain, LBP)は、あらゆる年齢層に起こりうる一般的な症状である。腰痛は、世界的に障害の原因として第1位であり、1年間に6,000万人以上の障害調整生存年数に関係している。LBPの治療において、運動制御運動(Motor control exercise, MCE)が注目されている。しかし、それぞれのメタアナリシスから得られた知見は異なっており、論争の的となる結論に達したものさえある。さらに重要なことは、MCEがLBP関連症状をどのように改善させるかについては、依然として不明な点が多いということである。
●本研究の第一の目的:脳、生化学、炎症、および神経筋の側面から、LBPに対するMCEの可能性のある改善メカニズムを説明することである。
● 第二の目的:その有効性と臨床応用をさらに結論づけることである。
メカニズムおよび有効性のさらなる理解は、今後のLBP治療にとって有益であり、理学療法士が処方を行う際により多くの情報を提供することができる。MCEは、急性および慢性のLBP患者の疼痛と障害の緩和に有効である。特筆すべきは、急性LBPに関するエビデンスは比較的質が低く、限定的であることである。MCEは、特定のLBPの特徴を有する患者、特に腹横筋の動員障害が事前に診断され、痛みの強さが中程度で、MCEのトレーニング期間が長い患者に対して、より効果的である可能性がある。
以下、4領域の効果についてミニレビューである。

■ 脳 Brain
- CLBP患者と健常者で脳構造の違いが明らかになっている(📕Mansour, 2013 >>> doi.)。
- CLBP患者では脳梁と内被殻の白質が減少していた。一方、側頭葉、背外側前頭前野(DLPFC)、島皮質、S1の灰白質の減少が明らかになり(📕Kregel, 2015 >>> doi.)、そのほとんどが疼痛マトリックスと関連していた(📕Davis, 2013 >>> doi.)。
- 筋力トレーニングは、LBP患者の自己申告による疼痛を軽減することが報告されている(📕Kristensen, 2013 >>> doi.)。
- 骨格筋の筋肥大と全白質容積の増加、および右側頭葉の灰白質容積の増加との関連性を発見した研究もある(📕Kilgour, 2014 >>> doi.)。
- さらに、RTは高齢者の加齢変性に伴う白質萎縮を緩和するのに有効であることが証明されている(📕Best, 2015 >>> doi.)。
- MCE中の同様の筋収縮を考慮すると、LBPに対するMCEの緩和メカニズムはRTと同じかもしれない。

■ 生化学 Biochemistry
- 疼痛軽減のメカニズムとして考えられるのは、MCEによって誘発される運動誘発性痛覚低下(exercise-induced hypoalgesia, EIH)である。
- EIH効果は運動部位の違いによって異なる可能性がある。具体的には、運動部位は、運動部位から離れた部位よりも大きなEIH効果を生じる(📕Vaegter, 2014 >>> doi.)。
- この知見に基づけば、MCEはLBP患者に対して痛覚減退を誘導する「局所的有効性」を有するため、より優れていると考えられるかもしれない。
- MCEによって誘発されるEIH効果を包括的に探求するためには、より質の高い研究が必要である。

■ 炎症 Inflammatory
- 多くの研究が、LBPの主な原因である椎間板変性の炎症病態に焦点を当てている(📕Chou, 2011 >>> doi.)。
- 運動による抗炎症作用は多くの研究者によって提唱されており、複数のメカニズムによって説明することができる(📕Pedersen, 2011 >>> doi.)。
- ある研究では、LBP患者を対象とした長期MCE介入後のTNF-αとIL-6の血漿中求心性レベルの変化を調査している(📕Minobes-Molina, 2020 >>> doi.)。その結果、TNF-αは介入後も維持されたのに対し、IL-6は介入後に増加した。すなわち、MCEは炎症性因子のさらなる生成を防ぐだけでなく、炎症プロセスを抑制する抗炎症性因子の増加にも寄与する可能性がある。

■ 神経筋 Neuromuscular
- 体幹深層筋は胸腰筋膜に付着しており、組織の筋硬度を高めることで、体幹の安定性を向上させ、関節への圧力に抵抗することができる(📕Gordon, 2016 >>> doi.)。通常、これらの筋肉は、日常生活において体幹の安定性を維持するために、表層筋よりも先に活性化される。
- 病的な状況下では、これらの筋は機能不全に陥り、一方、表層筋はより脊柱の安定性を得るために動員される。その結果、CLBP患者では、表層筋の作動性筋と拮抗性筋の共作動がみられた(📕Radebold, 2000 >>> doi.)。
- MCEは体幹深部の筋肉をターゲットにすることで、弱い体幹深部の筋肉の筋力を向上させ、誤った活性化モードを調整する(📕Hlaing, 2021 >>> doi.)。強化された体幹によってもたらされる十分な安定性は、共働的で身体的負荷の高い活性化パターンではなく、最適な活性化パターンを再定義するための脳へのシグナルとなりうる。
- 持続的なMCEプログラムは、腰背部筋の運動誘発性肥大(📕Hlaing, 2021 >>> doi.)とともに、筋肉内脂肪組織(📕Hebert, 2020 >>> doi.)の割合を低下させる可能性がある。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

1つの行動には、多くの影響がある。
だが、そのすべてを見渡すことは、僕たちには難しいことが多い。
たとえば筋力トレーニングは、ただ筋力を向上させるのみにあらず、可動域まで増大する。

そして、今回の論文が示してくれたのは、1つの体幹トレーニングが、少なくも4領域にわたって影響を及ぼしている可能性がある、ということだ。
だが。
これを知ることで、僕たちや患者にとって何が有益なのだろう。

1つには、「期待をつくり出せる」があると思う。
エクササイズ前の口頭説明において、どの効果に焦点を当てるか。
脳か、生化学か、炎症か、神経筋か。
それを規定するのは、その患者自身が一番求めている効果。
それにフィットするように口頭説明やフィードバックを与えれば、疼痛軽減効果が期待できるかもしれない。

この手札は、多くの効果の可能性を知っていなければもてない。
この意味で、知は力なり、である。

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