ベイジアン脳。治療への期待度が痛みの改善を予測
📖 文献情報 と 抄録和訳
腰痛に対する腰椎注射後の臨床転帰を予測する個人の治療期待度
[背景・目的] 主観的な期待は、臨床的な転帰と関連することが知られている。しかし、期待は回復のさまざまな側面について存在し、特定の治療法に対する期待に焦点を当てた研究はほとんどない。ここでは、腰痛に対して腰椎ステロイド注射を受けた患者(N=252)を対象とした前向き観察研究の結果を紹介する。
[方法] 患者は注射の直前(T1)、直後(T2)、2週間後(T3)に質問票を記入した。痛みの強さに加えて、治療効果に対する期待(およびその確実性)を、数値評価尺度(NRS)と治療効果期待尺度(ETS)の両方を用いて評価した。T₁とT½の疼痛レベル,期待度,確信度から,治療結果(T3の疼痛強度)を(サンプル内で)説明するために,回帰モデルを使用した。クロスバリデーションを用いて,モデルの治療成績(標本外)予測能力を検討した。
[結果] 注射後2週間の疼痛強度は有意に減少し(P<10-15),NRSスコアの中央値は6から3へ減少した。数値評価尺度による疼痛,期待,T₁時点の確実性は治療成績を共同して説明した(P<10-15,R2=0.31)。T₁での期待は,それ自体で治療成績を説明し(P < 10-10, f² = 0.19),0から10のNRSで中央値1.36の誤差で,治療成績に関する標本外予測を可能にした(P < 10-4)。治療効果への期待が1ポイント上がると、0.59の痛みの軽減が期待できる結果だった。T₂の測定値を含めても、モデルを有意に改善することはなかった。治療期待の代替測定としてETSを使用した場合(感度分析)、一貫した結果が得られた。
[結論] この結果は、治療への期待が腰椎注射後の臨床転帰に重要な役割を果たすことを示しており、認知的介入を併用する際のターゲットとなる可能性がある。簡単な質問票による治療成績の予測は、治療選択の支援に有用である可能性がある。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
これまでの文献抄読において、「疼痛はただ侵害受容器からの求心性入力のみにあらず」ということは学んできた。
例えば、変形性関節症の疼痛の47%を心理的要因が説明した(X線写真の重症度は1%だけ説明した)。
ここから考えても、人間が疼痛を感じる際の仕組みは、「ベイジアン脳」の考え方で説明できる部分が大きそうだ。
また、疼痛感受性の変化においても、興味深い報告があった。
なんと、好きな音楽を聴くと頭痛が軽減するのだ。
しかも、この音楽による鎮痛効果は人間のみにあらず、ネズミでも通用することがScience誌で明らかにされた。
そして、今回は横断的な疼痛ではなく、縦断的な疼痛に対する治療効果において、疼痛への期待が独立して影響することが明らかにされた。
僕たちは、疼痛への治療をするとき、いきなり始めていないか。
その前段階として、「この治療なら、疼痛が治りそうだ」という期待を、どの程度持たせられているだろうか。
治療への期待は、その治療が有効と思われる評価結果や、臨床思考過程の共有、そしてラポールが形成されているかなど、多岐にわたる要因によって決まっているのだろう。
その構成要素を明らかにして、治療への期待がつくり出せれば、1 ポイントで0.59 の痛みの軽減が期待できる。
治療への期待をつくり出す技術…、勉強しよう。
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