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音の鎮痛効果。生物的本能に根ざす

📖 文献情報 と 抄録和訳

音による大脳皮質視床回路を介した鎮痛作用の誘導

📕WENJIE ZHOU, et al. Sound induces analgesia through corticothalamic circuits. Science. 2022. 198-204. https://doi.org/10.1126/science.abn4663
🔗 DOI, AASJ

[背景] 音が痛みを効果的に抑制することは、以前から知られていた。しかし、音楽や騒音によって引き起こされる鎮痛効果が何によってもたらされるかはまだ不明である。

[方法-結果] 音による鎮痛効果が、周囲の騒音に比べて低い(5デシベル)信号対雑音比(SNR)に依存することを、マウスにおいて発見した。

■ 50db程度の音圧 → 鎮痛。人間にとって気持ちのいい音楽でも、ホワイトノイズでも全く同じ効果がある。
■ 60dbという強い音圧→効果が全くなくなる。
■ 環境ノイズとホワイトノイズの音圧の違いが5dbでは痛みが和らぐが、それ以上だと全く効果がない。

[結論] これらの結果より、音に注意が向くことで痛みが和らぐが、少なくともネズミでは環境と異なる音であれば何でもいい。そして、弱い音が周りから区別出来るときがその効果が強い。野生の状況を考えると、障害を受けても次に襲ってくる敵の気配に注意を向ける必要があるときに、痛みを和らげる効果があることになる。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

闘争-逃走本能(fight-or-flight response)が生物には刻まれている。

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✅ 闘争-逃走本能(fight-or-flight response)
- 1929年にウォルター・B・キャノンによって初めて提唱された動物の恐怖への反応である
- キャノンの説によると、動物は恐怖に反応して交感神経系の神経インパルスを発し、自身に戦うか逃げるかを差し迫るという。
- この反応は、脊椎動物あるいはその他の生物でストレス反応を引き起こす一般適応症候群の初期段階として後に知られるようになった。
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すなわち、音の違和感「(草むらで)カサカサッ」を感じたときに、次の瞬間、動物は「闘争か逃走か」を問われる可能性が高くなる。
そのために、バトル神経である交感神経系が賦活される。
賦活された交感神経は、アドレナリンの分泌を高めるがアドレナリンは疼痛に対して以下の影響を与える。

✅ アドレナリンの疼痛に対する影響
- 交感神経が強く作用すると、体は「心拍数、血圧を上昇させる」「瞳孔を拡大させる」など、緊急事態に備えたスタンバイを行います。
- また、作用の一つとしてアドレナリンというホルモンを分泌させますが、アドレナリンが大量分泌されると、痛みを感じるセンサー(感覚器)が一時的に麻痺した状態になり、本来感じるべき痛みを感じにくくなります
- 格闘技の試合やハードな接触のあるスポーツなどで、選手達が痛みを感じてないかのようにプレー出来るのも、同様にアドレナリンが大量に分泌されているためだと推測されます。
🌍 参考サイト >>> site.

心地よいから鎮痛が生じるというより、「生存にとってイエローフラッグが上がったから、疼痛を感じている場合ではない」、というわけだ。
人間の場合に、その後に「心地よいから、鎮痛が生じる」仕組みがあるのかは気になるところだ。
なんにせよ、音による鎮痛は、かなり本能に近い部分に刻まれた仕組み。
即時効果として期待できる部分は大きいだろう。

この仕組みに基づくと、
・環境上のノイズから逸脱される程度に、はっきりした声で患者に話しかけることは、その本能を賦活するだろうか・・・。
・一方、音楽を「流しっぱなし」にすることはイエローフラッグを上げない気がする。
・リハビリ前の20分間に音楽をかけるとか、断続的に音楽を使うことが有効なのだろうか。
「音」の使い方・・・、もっと勉強していきたい❗️

🌲MORE⤴:研究領域についてもっと勉強してみる

🔗 >>> Connected Papers

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