#013食文化関係の書籍、いろいろ(1)
もともと食べること、飲むことが好きで、それが高じて食文化史関係の仕事なんて出来ればいいな、とぼんやりと考えていた時期がありました。結局はものにはなりませんでしたが。しかし、全然関係のないことで身を立ててからも、継続的に食文化関係の書籍を購入して読んでいるので、何となく職場でもそういうことに堪能な人、という印象で見られています。今回は手元にある食文化関係の書籍を紹介してみようと思います。単なる自分の蔵書紹介ですので、随分偏りもあるかと思いますので、そんなの以外にもあれもある、これもある、ということもあるかと思いますので、その際はご紹介いただけると嬉しいです。
『カレーライスの誕生』や『とんかつの誕生』を読んでモノから見る歴史という視点に非常に興味を持って、続いて『砂糖の世界史』、『英国紅茶論争』などを読んでモノから見る世界のつながりという視点に非常に興味がわいて、紅茶や砂糖のほかの世界商品はコーヒーだろう、と思い、この本を読んでみましたが・・・独特な文体もさることながら、「そんな一つの事象からはそこまでは言えないだろう」という点が多々あり、かなり実証性に乏しく独断的(独創的?)と思われる視点が続き、最後までまゆつば感がぬぐえませんでした。読後はタイトルに惑わされたという感じで、期待を裏切られました。
兵士の食料事情が知りたくて、近代からどんどん遡って、中世のものが参考にならないかと読んでみました。知りたかった点としては戦場の兵士がどのような食生活を送っていたかのヒントが欲しかったんですが、兵糧自弁も含めて「であろう」ということでしかなく、確たることは判りませんでした。自弁や略奪という点は藤木久志の研究の方が判りやすかったように思います。書名からもそうですが、視点としてはマクロな視点で、大名の普段の兵糧のあり方などがわかったのが面白かったです。使われている例が、北条や毛利などが殆どなので、これまでの研究でも戦国大名の例といえば、という例と同じだったので、出来れば当時の先進地帯である畿内近国の例があれば、更に勉強になったのにと思いました。
食肉についての子供向けの本で、子供に説明するときに役立つかと思って購入しました。
家畜が精肉されるまでの過程に半分位を割いて丁寧に説明をしていて非常に分かりやすく書かれています。残り半分は穢れ意識と差別についてだったんですが、子供向けに分かりやすくするためなのか、かなり回りくどい説明なのが気になったのと、穢れ意識についての説明が通り一辺倒なのが気になりはしたが、なかなかいい本でした。
『幕末単身赴任下級武士の食日記』が面白かったので、仕事上和菓子を取り扱うこともあるために、趣味と実益をかねて読んでみました。古代から現代までの菓子の発祥から歴史や、古代の中国、中世のポルトガル、近世のオランダなどから日本の菓子事情に及ぼした影響などを踏まえて、写真や図版も豊富で非常に判りやすく書いてあるのが良かったです。年中行事や人生儀礼に関わる菓子についても言及しており、今後の生活においても、この日だからこれを食べよう、という気にさせてくれる本でした。『和菓子の今昔』の改訂版ですが、情報としては当然新しいことや追加情報があることは大変ありがたいですが、『和菓子の今昔』の方が版も大きく、コート紙を使用しているので、図版・写真は改版前の方が見やすいです。
幕末の武士の普段の生活が判るかもと思い、読んでみました。内容は非常に判りやすかった上、『江戸の銭勘定』よりは物の値段が妥当な感じられました。ただ、読み下しと解説が交互に出てくるのが、余り有効でないように思えましたが、著者は原文は資料集で見れるけれども一般の方には取っつきにくいから、ということで掲載しているので、意識的にしていることではあるのですが、出来れば原文と解説の方が味わいが感じてもらえてより良かったのでは、という気がしました。とはいえ、甘味が大好きで、やたら観光名所を見学しにいく、幕末の剣士伊庭八郎が活躍の舞台に上がる前の一般の若者らしい様子が微笑ましくて好感が持てる一冊。
川端道喜は、言わずと知れた中世から続く京都の伝統的な粽屋で、そのご当主が書いた本ということで、非常に興味深く読ませてもらいました。道喜の粽について、どのような変遷を経て現在に至ったのか、京都の菓子とそれを支えた宮中の文化、明治維新を迎えて京都が衰退していく中、宮中から茶事に重点を移していく様など、家に残っている資料を用いて書かれており、長年京都で続いてきた店だからこそ語れるさまざまなことがわかって、非常に勉強になりました。序章で京都人気質についても書かれていますが、特段資料に基づいている訳ではなく、ご自身の感覚で述べられているので疑問な点もありましたが、その部分を引いて考えても、なかなか興味深い本でした。
先達て読んだ和菓子の本で注引きされていたので読んでみました。各地へ講演依頼された際の訪問先での経験などから、様々な食材について述べられており、面白かったです。何より、注引きされている本が考古学のものに限らず、かなり多岐にわたっているので、非常に勉強になりました。続刊も出ているようなので、そちらも読んでみようと思います。
本書は江戸時代に居酒屋がどのようにして誕生していくか、どのようなスタイルで酒を飲ませたか、酒の肴には何を出していたのか、などについて詳細に記したもの。居酒屋の発祥は酒の小売店での立ち飲みから始まり、別系統では料理屋が酒を出してそれに見合った肴を提供しだす、というところから、原則燗酒をお猪口で回し飲みだったことや、突出しは昭和に入ってからの文化であることなど、なかなか興味深い事例を浮世絵や通俗小説、料理書、俳諧などを題材として収集した労作です。一点気になったのは、著者は居酒屋で酒を飲むと記されていますが、燗酒の容器が銅製ちろりから燗徳利に変化していく過程で酒の味がまろやかになると資料に書かれてあるが意味が判らない、冷める時間にも差はない、とされており、銅製のちろりなら温めている間に銅の独特の味と匂いが染み付くのでそれを嫌がる人が多かったことが想像され、現在のちろりが錫製の鋳物に切り替わっていることからも匂いと味、冷め難さということが重要視されたと言って差し支えないのではないかと、飲む人なら気づきそうなものなのに、と思いました。
そば、蒲焼き、天ぷら、すしの順に江戸で誕生していったそれぞれの経緯や特色を盛り込んだ内容で非常に興味深かった。中でもそばが江戸で定着した後に天ぷらが江戸で定着し、たまたま天ぷら流行店の隣にそば屋があったところから、消費者が両方を買うことで天ぷらそばが誕生した、という話や江戸時代のすしは現在よりかなり大きく一口で食べられないもので、その食べている途中のものが見苦しかったりネタが噛み切れなかったりしていたものが段々と食べやすさを求めて小さくなり、現在の大きさになるのが昭和戦前期に米1合を持参して一人前を委託調理してもらう制度が出来た際に成立したこと、また同制度によって一人前がにぎり8個と巻き寿司2個に定まった、という現在の盛り合わせのスタイルの成立したという話が非常に興味を引かれました。ただ一つ難点を挙げるとすれば、初出が辿れない史料引用があっり、個人的に深掘りしたかった点が追えなかったのが残念でした。
『すし、てんぷら・・・』、『居酒屋・・・』に続いて飯野亮一の3冊目として読みました。これまでの著書と同じく、俳諧や文学作品から庶民の食生活を読み解くスタイルで、今回は特に近代の統計や新聞、雑誌なども多用しており、なかなか面白かったです。残念ながら関西の事例は少ないですが、国立国会図書館近代デジタルライブラリーで見れそうなものもあるので、当たってみたいと思います。
我ながら何やかやと読んでいるものですね。とりあえず今回は10冊にとどめておきます。1回で収録できなかったので、また続きを掲載します。
いただいたサポートは、史料調査、資料の収集に充てて、論文執筆などの形で出来るだけ皆さんへ還元していきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。