Episode 090 「何もないな 誰もいないな 快適なスピードで 道はただ延々続く」
Episode089にて触れたPam(パム)の家の一室への引っ越しが行われる直前、私はとある旅に出た。或いは、詳しくは「ひたすら運転する行為」と言った方が正確かもしれない。
それは、父親、母親、そして妹と私の4人での旅だった。私以外の三人がアデレードからブリスベン(クイーンズランド州)に引越しをすることになった。
その際、もちろん家具など全ては(プロに引越し屋さん任せて)引越しのトラックで移動させたのだが、車に関しては、せっかくなので運転してアデレードからブリスベンまで(運転をする事で運ぶ形で)持って行こう、となったのだ(そして、帰りは私のみ飛行機でアデレードに戻ってきた)。
無邪気に「車は自分達で運転して持って行こう」とは言ったものの、具体的な走行距離は2000キロ以上あった。そう、先ほど述べた様に、東京↔大阪間を2往復するに等しい距離。
尚、日本列島とオーストラリア大陸の違いは、運転の際に目に入る光景である。オーストラリア大陸の中心部は赤土の砂漠である。そこに、まっすぐの高速道路がひたすら続いている。極論、ガソリンが切れたら一巻の終わりである。ガソリンが切れたら近くのガソリンスタンドまで歩いて、という具合にはいかないのである。
従って、我々はガソリンスタンドが目に入る度に給油を行い、タンクを常に満タンにしておくことに務めた。まるで、スマホの充電を常に100%にしておく為に、細目に充電を行う様に。
我々(と、言っても私と父親が交代で運転した)はアデレードからブリスベンまで、ノンストップで車を走らせ、丸一日で2000キロを走り抜いた。
夜になると、一面、真っ暗になった。因みに、その暗さは東京のそれとは全く異なる。控えめに言っても、全く異なる。
赤土と果てしなく続く道路、この二つ以外、何もない環境での暗さとは、恐怖さえ覚える暗さである。自然の偉大さに飲み込まれそうな感覚になる。まるで、ブラックホール(そう、「Event Horizon(事象の地平面)」だったり、通常の物理法則が通用しなくなり、一般相対性理論の様な理論が必要とされるそれ)にすっぽり飲み込まれたかの様に。
しかしながら、その暗闇と同時に存在しているのが、星の光である。また、この星も東京で見るそれとは全くの別物である。もう、まっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっったく違う。
その違いはまるで、模型の船とタイタニック号くらいの違いくらいある。ん〜、なんか違う。く⚪︎寿司のトロと銀座の高級寿司屋(そう、カウンターの)のトロとの違いくらいある。ん〜、これもなんか違うし、別に銀座の高級寿司のマグロについても充分に理解できていない。まぁ、兎にも角にも、要点としては「圧倒的な違いがそこにある」ということである。
では具体的にどう違うのか。まずは、明るさが全く違う。そして、その(星の)大きさ及び数が圧倒的に違う。
目の前に見える地平線から空に向かって星がぎっしり空を覆っているのである。首を傾け、上を見上げる必要なく、目線は通常時の前方を向いた状態で、無数の星が視界に飛び込んでくるのである。
まるで習字の墨樹を、宇宙空間から地球を目掛けてぶっかけた様に真っ暗闇の空間が、数々の星で眩しいのである。
「真っ暗だが眩しい」とは矛盾している様な表現(そう、「ハゲなのに髪フサフサ」と言っている具合)だが、実際にそれ以外の形容の仕方がない。先ほど触れた様に、恐怖を覚えるくらい真っ暗なのだが、その圧倒的なまでの真っ暗な空をあまりにも輝いている星が目一杯埋め尽くして、眩しくさせているのである。ん〜、どうしても活字では伝わらない・・・乏しい語彙力がここまで悔やまれることもなかなか無い。
あの光景は、40歳になった今(2024年時点)でも、恐らく最も壮大で、最も美しい光景の一つとして記憶に残っている。
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