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〈去りがたきこの夕べ〉



麗らかな日の午後
日輪は中天から西に回り

赤道直下に近いとある街で

高い塔の影が
白い石の部屋に
黒々と掛かる頃

きみは午睡から目覚め

この世界に
たった一人きりで 
やってきたことを

いま

初めて思い出した
ように

静かに戦慄する

はるか上空では
乾いた西風が
強く吹き

錆色の悲哀と悔恨を
東へ流す

遠くで
聴こえるかもしれない
潮騒に

透明な耳を
そばだてる
ひとが

幻の
二本足が
歩む
白砂の
美しい浜辺
に召喚される

ああ
麗しき
思い出もない

去りがたき
この夕べ

贈るべき歌もない
この夕べ






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