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映画『イカロス』

2017年/製作国:アメリカ/上映時間:121分 ドキュメンタリー作品
原題 Icarus
監督 ブライアン・フォーゲル




予告編



STORY

 ロシア人科学者の証言(暴露)により、スポーツ界を揺るがす大規模ドーピング計画の一部始終が明らかにされてゆく過程を描く。
 自身が自転車選手である監督のブライアン・フォーゲルが、スポーツ界におけるドーピング検査の有用性検証のため、自ら使用禁止薬物を摂取しドーピング検査を通過できるかどうかを実験しようとするのであるが、その過程にてロシアの(ドーピング関係の)専門家グリゴリー・ロドチェンコフと知り合う。しかしロドチェンコフがロシアの国家主導によるドーピング計画に関与していることが明らかとなり、事態はフォーゲルの予想を遥かに超える、とんでもない事態を暴いてゆくこととなる。


【イカロス】

 ギリシア神話の人物。クレタ島の迷宮を建設した有名な工人ダイダロスの息子。ミノタウロスがテセウスによって退治されたあと,この殺害にダイダロスが手をかしたことを怒ったミノスによって,父とともに迷宮に閉じ込められた。ダイダロスは人工の翼を発明し,それを自分と息子の肩にろうで貼りつけて空に飛上がり,迷宮から脱出したが,飛んでいく途中でイカロスは,父の注意を忘れ,太陽に近づきすぎたために,熱でろうが溶け,翼が取れて海に落ち,溺れ死んだとされる。

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典より


レビュー

 タイトルの『イカロス』は、ギリシャ神話の登場人物の名前が由来であり、この作品では「上を目指し過ぎドーピングに頼ったことにより墜落し、「名誉」も「誇り」も「スポーツマンシップ」も失ってしまったスポーツ選手達の人生」を揶揄しています。
 が、実はそれだけではなく、(ネタバレになるため詳しくは記しませんけれども)様々な立場の人々や、組織、国家までをも揶揄しています。

 ジョージ・オーウェルの小説『1984』を通奏低音のように利用しつつ奏でる本作の構成は巧みで、サスペンスやミステリー好きの方にはたまらない作品なのではないかと思いますけれども、ドキュメンタリー作品であるにも関わらずとんでもない内容であるため、ハラハラドキドキどころではなく、ガクガクブルブルでした。

 また、政治とオリンピック(スポーツ)の関係についても、多くを学ぶことの出来る作品となっており、そういった部分も見所となっております。
 作品内でも描かれている通り、オリンピックという催しは政治利用の歴史があり、むしろ政治利用のために存在すると言っても過言ではありません。
 これまでのオリンピックの開催国、時期、その国のオリンピック前後の政治状況や政策等を少し調べてみれば「スポーツの祭典」「平和の祭典」という表の顔の裏に、もう一つの顔が浮かび上がってくることでしょう。
 作品内では、ロシアがソチ五輪後にウクライナに侵攻した事実が語られますけれども(そしてその後はオリンピック中に・・・)、ナチスドイツも同じようにオリンピック後の国民のナショナリズムの高まりを利用しました。
 東京オリンピックも、当然、政治利用を第一目的としていたことは、もはや誰もが知る周知の事実と思います。
 ちなみにオリンピックは「災害であり、人災」と言われていたりしますけれども、まさにという感じでした。
 
 スポーツ選手の多くは、大衆の憧れの的であると同時に、普段は練習に明け暮れているため政治に関して非常に疎いという特徴があります(自分もスポーツをしていた時期はそうでした)。
 またアマチュア選手の場合は、引退後の収入(生活)の問題もありますから、政治利用する人材にはうってつけの存在となります。
 
 話がズレてしまいましたゆえ、戻します。

 ・「偽りがまかり通る世の中で、真実を伝えることは革命的行動となる

 ・「君の(洗脳から解放されたまともな思考への)復帰過程には3段階がある。【学習】して【理解】し【受け入れる】ことだ

 とは、作品内でも紹介されている、ジョージ・オーウェルの言葉です。
 本作の語り手は、最も重要な登場人物達や、鑑賞者である私たちの多くも『1984』にて描かれた「二重思考」の罠に陥っていることを、その文章を巧みに引用しつつ、まるで犯人を追い詰め謎を解き明かす名探偵のように鮮やかに推理し、白日の下に晒してゆきます。
 その提示された事実に、私たち鑑賞者は・・・(以下略)

 ※『シチズンフォー スノーデンの暴露』『ステロイド合衆国 〜スポーツ大国の副作用〜』等と合わせて鑑賞すると、より楽しめるかもしれません


余談

 「オリンピックは、国家にとってのドーピングである」と、何処かで読んだ記憶があります。
 ゆえに国家というものが存在する限り、これからも続いてゆくものである・・・とも・・・


 (以下ネタバレにつき、未見の方はスルーなさってください)
 

 終盤、監督が情報を各組織に報告する場面では何台もの固定カメラを使用しており、明らかにアメリカ政府の介入&指示の下に撮影が行われている雰囲気を感じましたし、ロドチェンコフが「証人保護」制度によりその身柄を保護してもらえたのは、「保護することによりアメリカにとって政治的な国益を見込める人物である」ということなのでしょう。
 そして、本作は「アカデミー賞」を当然のように受賞。
 ドキュメンタリー映画を利用した、プロパガンダの香りがプンプン臭いました(そういう部分も含めて面白い)。
 それからロシアもアメリカも、情報操作と軍事力で世界のトップをひた走る国家ですから、色々なことが脳裏をよぎりました。
 本作のジャケットの画のように、私たち個人も操られないよう、皆で気を付けましょう。
 ※ちなみに日本という国家は、様々な本によると、敗戦後からとっくにアメリカの操り人形なのだそうです

 ちなみに本作は、「ロドチェンコフはアメリカに保護されています」というような終わり方でしたけれども、ロシアの操り人形であったのが、今度はアメリカという国家の操り人形になっただけでは? という疑問。
 闇は、深い・・・


余談 2 (私が経験した『イカロス』)

 告白すると、実は私もスポーツをしていた小学生の頃に、「イカロス」な経験をしたことがあります。
 それは、自宅で人生初めての揚げ物に挑戦した日のことだったのですけれども、油の温度を上げ過ぎて、鍋にイカリングを入れた瞬間に真っ黒げになり(衣が炭化し)、とても怖かった・・・という・・・(軽くパニックになりましたし、油ハネして火傷をしなかったのは奇跡でした・・・)
 親の助言も、本やネットのレシピも無しでの初挑戦だったため(親が作っているのを見て「楽勝でしょ!」と過信していました)、揚げ油の温度を上げ過ぎたらダメとか知らなくて・・・(今思えば油が気化していました・・・)
 その結果、イカロス・・・という・・・
 
 色々な意味でごめんなさい・・・
 
 

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