記事一覧

マッチングアプリ

 マッチングアプリは就職活動に似ている。プロフィールがESで、通話が一次面接、初デートが2次面接、以下略、といった具合である。お互いに就活生であり面接官でもある。…

日向子
4日前
1

流通と物流

 モノの物理的な移動を、物流と言い、モノの権利の移動を流通と言う。物流はトラックがあれば成り立つ。流通は電話があれば成り立つ。この意味がわかるだろうか?  人間…

日向子
9日前
2

煩悩

 初対面の人間、というより道端ですれ違っただけの人間のほうが性的魅力を感じる。言葉もかわさず、目も合わせず、ただこちらが一方的に視覚的に認識しただけの相手のほう…

日向子
2週間前
1

習作5

「この歳になってもさー、結婚しなくてよかったと思うわ、ぶっちゃけ〜。」 アイスコーヒーのSサイズのカップを紙製のストローでかき混ぜながら彼女は言う。 「えー、私は…

日向子
3週間前
1

君がここにいなくても

 はい、あなたの人生はもうおしまいです。って誰か言ってくれたらいっそ楽なのにと思う。人生が終わる、そう言うとまるで映画が感動的なラストシーンを迎えて、Endとか完…

日向子
3週間前
6

習作4

 梅雨が始まった。ジメジメして気持ち悪い。憂鬱な出勤がもっと憂鬱になる。お客さんの数は減るけれど、変わりに一回の会計が多くなる。しかも大雨で回線が時々不調になっ…

日向子
4週間前
1

メンズコーチ☆

 男性は女性を「可愛い」で評価するのに対し、女性は男性を「かっこいい」で評価する。かっこいいとは、概ねヒエラルキーの上位に君臨する要素を指して言う。足が早いとか…

日向子
1か月前
1

習作3

 翌朝目覚めて形態の画面を見ると、通知が一件。 「星名です。よろしくお願いします。」  SNSってイマイチ使い方がわからない。こういう時って丁寧に返事したほうがいい…

日向子
1か月前
1

習作2

(フィクション)  他人と比較することをやめたい。自分には自分の幸せがあるって信じたい。でもこの年になると見ないようにしていたものが段々と見えてくる。それは昔は…

日向子
1か月前
4

習作

もう二度と過去には戻れないと言う事実を無性に悲しく感じる時がある。美しい過去を思い出しても、まるで今の私とは全く違う人の記憶のように思えてしまう。もし仮に彼が今…

日向子
1か月前
6

人間関係

 人間関係の親密度はある程度まで会話の内容で測ることができる。  会話は前提条件の共有に始まり、さらに新たな共通認識を確立していく行為である。挨拶によってまずお…

日向子
2か月前
1

家庭を持ちたいですか?

この前兄貴の貯金額を知って驚いた。株式投資もやっていて、順当に資産を増やしている。何のために金を貯めているのかといえば、早期退職して隠遁生活を送るためらしい。ま…

日向子
6か月前

コミュ力と言語能力は違うんです

コミュニケーション能力と言語能力は似ているようで異なる。言語能力というのは、言語を用いてなにか表現する能力である一方で、コミュニケーション能力は、その言語能力を…

日向子
6か月前
4

団塊世代は悪、Z世代は将来の悪

 バイトの関係で、団塊世代と呼ばれる人らと関わりを持つ機会がある。それほど多くの言葉を交わさないものの、少し会話する程度でも世代の差を認識させられる。  ついこ…

日向子
6か月前

夜景を見て

「僕は就職するが、君は昔のままの夢を追い求めていて羨ましいよ。」 「夢か。夢というのは、見ている間が一番幸せで、叶えてしまえば虚しいものなんだろうな。」 「どう…

日向子
6か月前
5

2023年を振り返って

 2023年がいつ始まったかもはや覚えていない。たしか1年前に始まったはずだが、そうでない気もする。知る限り一番古い記憶は2月5日のことで、この日の夜遅くに電話がかか…

日向子
7か月前
3

マッチングアプリ

 マッチングアプリは就職活動に似ている。プロフィールがESで、通話が一次面接、初デートが2次面接、以下略、といった具合である。お互いに就活生であり面接官でもある。ただ女性のほうが選ぶ側であると言う意識が強いのは確かだ。
 マッチングアプリを始めて10日が経過した。現在2名の女性とアポイントを取って対面を果たすことに成功した。これは平均的な男性と比較すれば良いペースだろう。とは言えそれは私が優れてい

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流通と物流

 モノの物理的な移動を、物流と言い、モノの権利の移動を流通と言う。物流はトラックがあれば成り立つ。流通は電話があれば成り立つ。この意味がわかるだろうか?
 人間社会には二つの空間がある。1つは私達が今目にしている空間。3次元の物質の空間。もう一つは私達が頭の中で捉えている仮想空間。目で見ることも手で触れることもできないが、確かに存在しているものの世界。
 もっとわかりやすく説明しよう。机の上にペン

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煩悩

 初対面の人間、というより道端ですれ違っただけの人間のほうが性的魅力を感じる。言葉もかわさず、目も合わせず、ただこちらが一方的に視覚的に認識しただけの相手のほうが、気心の知れた異性の友人よりもずっと欲情の対象になりやすい。これは多分性別的な役割のせいなのか、あるいは思春期以来性の対象が画面越しにあったせいなのか、はっきりした理由はわからないが、あまり健全なことではない。
 自分の欲求に嫌気が差す事

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習作5

「この歳になってもさー、結婚しなくてよかったと思うわ、ぶっちゃけ〜。」
アイスコーヒーのSサイズのカップを紙製のストローでかき混ぜながら彼女は言う。
「えー、私はちょっとやばいのかなとか思っちゃうけど.…。」
「いやいや、周りで結婚した友達も、半分くらいは離婚してるし、子供なんていたらもう自由ないよね。」
「まぁ、確かに。正直子供持つなんて考えられない。そもそも他人と生活するのが無理かも。」
「周

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君がここにいなくても

 はい、あなたの人生はもうおしまいです。って誰か言ってくれたらいっそ楽なのにと思う。人生が終わる、そう言うとまるで映画が感動的なラストシーンを迎えて、Endとか完とかって画面に表示されて、あとはスタッフロールが流れるあれを想像するが、実際は違う。受験に落ちた日は決定的な瞬間だったが、人生の終わりではなかった。大学で留年が決まった日も、決定的な瞬間ではあったが人生の終わりではなかった。就職が決まらな

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習作4

 梅雨が始まった。ジメジメして気持ち悪い。憂鬱な出勤がもっと憂鬱になる。お客さんの数は減るけれど、変わりに一回の会計が多くなる。しかも大雨で回線が時々不調になって、クレカ端末やQR決済がうまくいかない事がある。それのせいで会計が長引いてお客さんも苛立つ。それはちょっとした態度に現れる。表情、声のトーン、お金の出し方。私は悪くないのに、と思いながら何度も何度も
「申し訳ございません。」
と繰り返して

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メンズコーチ☆

 男性は女性を「可愛い」で評価するのに対し、女性は男性を「かっこいい」で評価する。かっこいいとは、概ねヒエラルキーの上位に君臨する要素を指して言う。足が早いとか頭が良いとかコミュニケーション能力が高いとか収入が高いとか。ただこのことは裏返せば、女性からの評価を気にして行動することが、そのまま自身の社会的地位の向上につながると言うことも意味する。男は愚直に女からかっこいいと思われるように振る舞えば大

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習作3

 翌朝目覚めて形態の画面を見ると、通知が一件。
「星名です。よろしくお願いします。」
 SNSってイマイチ使い方がわからない。こういう時って丁寧に返事したほうがいいのか、それとも軽くよろしくって言うだけでいいのか。結局相手に合わせて
「佐々木です。よろしくお願いします。」
とだけ返した。
 みーちゃんは起きて一階のリビングに降りたみたいだった。時計を見ると9時。出勤は13時だからまだまだ時間に余裕

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習作2

(フィクション)
 他人と比較することをやめたい。自分には自分の幸せがあるって信じたい。でもこの年になると見ないようにしていたものが段々と見えてくる。それは昔は遠い未来だと思っていたもので、今は目の前に迫っているあらゆる現実だ。人はいずれ死ぬ。親も死ぬし、兄弟も死ぬ。そして私も死ぬ。でも死ぬってそんなに単純なことじゃない。その前にいろんなことが起きるんだ。しかもそれは一回起きておしまいというもので

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習作

もう二度と過去には戻れないと言う事実を無性に悲しく感じる時がある。美しい過去を思い出しても、まるで今の私とは全く違う人の記憶のように思えてしまう。もし仮に彼が今目の前に現れてもう一度やり直したいと言ってきたとしても、それはもう昔の彼ではない。もう今の彼とは膳所公園のベンチで琵琶湖を眺めながら1日中おしゃべりして休日を過ごすことも、深夜のコンビニで雪見だいふくを買ってはんぶんこして食べることも、親に

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人間関係

 人間関係の親密度はある程度まで会話の内容で測ることができる。
 会話は前提条件の共有に始まり、さらに新たな共通認識を確立していく行為である。挨拶によってまずお互いが同様の言語を話すことが共有される。これが不成立の場合言語でのコミュニケーションが不可能と判断される。その次に名前、出身地、趣味等の話題になる。これらの情報は、相手とどの程度前提条件を共有しているかを認識するのに役立つ。出身地の会話を例

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家庭を持ちたいですか?

この前兄貴の貯金額を知って驚いた。株式投資もやっていて、順当に資産を増やしている。何のために金を貯めているのかといえば、早期退職して隠遁生活を送るためらしい。まだ学生なのに、こんなんだから、就職すればもっとすごいことになるんだろう。

 かくいう私自身も、同じような考えを持っていた時期はある。結婚も将来の夢もどうでもよく、ただ自分ひとりが衣食住満ち足りた最低限の暮らしができればそれでいいと考えてい

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コミュ力と言語能力は違うんです

コミュニケーション能力と言語能力は似ているようで異なる。言語能力というのは、言語を用いてなにか表現する能力である一方で、コミュニケーション能力は、その言語能力を他者との関わりの中で適切に運用する能力を言う。(もちろん非言語コミュニケーションも存在するが、ここでは言語を用いたものを指して言う。)

 このことを理解するために「好きな食べ物はなんですか?」と聞かれた場合のことを考えてみよう。

 適切

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団塊世代は悪、Z世代は将来の悪

 バイトの関係で、団塊世代と呼ばれる人らと関わりを持つ機会がある。それほど多くの言葉を交わさないものの、少し会話する程度でも世代の差を認識させられる。

 ついこの前、私はある老夫婦の会話に違和感を覚えた。

 発言だけを切り取れば

「女の運転は信用ならんから。」

という夫の何気ない一言である。その後に続く

「私が代わりに運転したのですよ。」

という発言の前置きという文脈で放たれた言葉だっ

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夜景を見て

「僕は就職するが、君は昔のままの夢を追い求めていて羨ましいよ。」

「夢か。夢というのは、見ている間が一番幸せで、叶えてしまえば虚しいものなんだろうな。」

「どういうことだい?」

「僕はなにか、世界を変えたいとか、新しい発見をしたいとか、昔は漠然としたものを目的として頑張っていた。研究者になることがその手段だと思っていたし、そのために大学受験も頑張った。」

「でもまだ夢を叶えていないだろう?

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2023年を振り返って

 2023年がいつ始まったかもはや覚えていない。たしか1年前に始まったはずだが、そうでない気もする。知る限り一番古い記憶は2月5日のことで、この日の夜遅くに電話がかかって来て、それで新しい1年が始まった。幸福な1年だったが、9月の末頃に終わって、その1週間後に新年を迎えた。ちょうど月が美しい季節だった。だから2023年がいつ始まったかなんてわかりようもない。
 大晦日の明け方は街も駅も人はまばらで

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