煩悩

 初対面の人間、というより道端ですれ違っただけの人間のほうが性的魅力を感じる。言葉もかわさず、目も合わせず、ただこちらが一方的に視覚的に認識しただけの相手のほうが、気心の知れた異性の友人よりもずっと欲情の対象になりやすい。これは多分性別的な役割のせいなのか、あるいは思春期以来性の対象が画面越しにあったせいなのか、はっきりした理由はわからないが、あまり健全なことではない。
 自分の欲求に嫌気が差す事がある。一日の中で異性について思考を巡らせない日はない。生物としては真っ当かもしれないが、所詮自分はその程度の存在なのだと思わされる。思考を覗かれない限り、周囲の人間に悟られることはない。だが、少なくとも自分はそのことを知っている。
 どこの国でも宗教によって性が抑圧されていた理由が何となく分かる。何かを実現したい時、何かに集中したい時、とにかく一番邪魔だからだ。考えないようにすることもできる。だが、例えば目の前に若くて美しい女性が現れたらもう意識はそっちへ向かってしまう。美しくなくても、胸が大きければ視線がそちらへ向かう。バカバカしてくて仕方ない。
 呼吸や食事と同じだと割り切るのがいいかもしれない。出家でもしなければ女性を視界に入れずに生活することはできない。どうせ男性だけの世界に入ったところで、同性愛に向かうだけに決まっている。でもやっぱり無の境地にたどり着いてみたい。今はそこから程遠いどころか、人生で一番煩悩に塗れているように感じる。


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