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ぼちぼちブックレビュー

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主に新刊・近刊のブックレビューです。自分のブログに転載することがあるかも。記事は無料公開ですが、記事中のAmazonリンクからポチっていただけたら、ちょっとうれしい。
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#書評

少女マンガの歴史がつながる日/『総特集 水野英子 ー自作を語るー』

少女マンガの歴史がつながる日/『総特集 水野英子 ー自作を語るー』

歴史を後から追うのは、いつもジグソーパズルをしているようなものだが、大事なピースが本の中で見つかることもある。この『総特集 水野英子 ー自作を語るー』というタイトルは伊達じゃない。本当に語り尽くしている。ご本人のインタビューやゲストの証言、500点を超える図版、読み切り再録マンガ、年表、作品リスト……いずれも情報量が多く、内容が濃い。

まずは往年のファンに読んでほしい。当時の本を良好な状態で持っ

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広告&広報に関わる人の必携本『新プロパガンダ論』

広告&広報に関わる人の必携本『新プロパガンダ論』

今年に入って広告関係の書籍がたくさん出ていますね。その中で異彩を放っているのが『新プロパガンダ論』。広告や広報に関わる人に、とにかくおすすめしたいのです。

本書は、近現代史の研究者である辻田氏と公共政策を専門にしている西田氏による対談集です。2018年4月から2020年9月にかけて行われた、5回にわたる対談を掲載しています。

広告業界に身を置くと、「政治なんて自分とは関係ない」と言い切る人も意

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少女マンガは、あなたに読まれるのを待っている。/『ティータイムに魔法をかけて』乙女坂 心

少女マンガは、あなたに読まれるのを待っている。/『ティータイムに魔法をかけて』乙女坂 心

雑誌と単行本の関係はフクザツだ。連載もいろいろとあるけれど、特に読み切りの場合、単行本に収録されないままのものがある。きっと過去に「これは」と思いながら記憶の底にしまいこんでしまった作品もあるはずだ。今日はそんな悔悟も踏まえて『りぼん8月号』に掲載の読み切り『ティータイムに魔法をかけて』を紹介したい。(余談ですが、電子版で雑誌にアクセスできるのは、ほんとうに良いことだと思う)

さて、表紙絵にある

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SF創作講座の最終実作を読んでみたので、勝手にオススメするよ、という回

SF創作講座の最終実作を読んでみたので、勝手にオススメするよ、という回

今まさに本邦では「SFの企画を出したらボツにされそるほど唖然とする日常」の状況なのですが。大森望さんがゲンロンで行っている「SF創作講座」の最終実作も、そんな世の中を反映している作品が多かったです。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/subjects/11/

この中から最優秀作は「ゲンロンSF大賞」として選出されます。いわゆるSF読みとして、賞

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そのノンフィクション、誰のため?/『女帝 小池百合子』

そのノンフィクション、誰のため?/『女帝 小池百合子』

これまで緻密な取材を積み上げて対象に肉薄してきた筆者だが、本書はあまりにも掴みどころがなく、茫洋とした読後感が残る。それはSNSのタイムラインを長時間見ていた時に似ている。小池氏の虚無性を理由にあげる声を聞いたこともあるが、そうではない。対象への「違和感」を具体的に言語化せず、「虚無」の正体を掘り下げていないのだ。筆者も気づかぬところで、社会の歪みを曝け出す作品なのだ。

ノンフィクションは、時に

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セーラー戦士を閉じ込める「わたしたち」/『with』8月号

セーラー戦士を閉じ込める「わたしたち」/『with』8月号

講談社の女性誌『with』8月号に反応する人は多いでしょう。『美少女戦士セーラームーン』の原画を使った表紙のほか、作品とコラボしたコンテンツも掲載。注目の綴じ込み付録は、セーラームーン仕様の婚姻届です。この企画に意を唱える前に、読んでほしいレビューです。

ちなみに、『with』は主に20代女性を読者層とする情報誌で、タグラインは「恋も仕事も わたしらしく」という現実志向。カルチャー誌のような作品

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君の小宇宙(コスモ)は燃えているか?2020

君の小宇宙(コスモ)は燃えているか?2020

一度でも小宇宙(コスモ)を感じようとしたあなたは、即「買い」案件。

NETFLIXの「瞬の女性化問題」について、何も賛成も否定もないところは圧倒的な広告記事感なのですが、その代わりに資料価値がすごい。メインの語りは地上波TVアニメシリーズ(ポセイドン編まで)なので、「あの」聖闘士星矢の世界観が楽しめる。「完全保存版」の文字は嘘じゃないです。

登場人物紹介が細かすぎて、シャイナさんやジュネさんの

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どこまで続く? 「少女まんが道」

どこまで続く? 「少女まんが道」

タイトルそのまま、「元・少女漫画家」の作者が「少女漫画家」の時代を振り返ったコミックエッセイ。主に『ぶ〜け』で少女漫画を発表していた作者の「今だから話せる」エピソードの数々が、大量に投入されている。

マンガ家であり続けるのに大切なことが随所にちりばめられていて、マンガ家を目指すなら本棚に入れておくべき、いわば「マストバイ」アイテムだ。共感と、ジワリと涙することもあるだろう。もちろん、1980年代

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