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SF創作講座の最終実作を読んでみたので、勝手にオススメするよ、という回

今まさに本邦では「SFの企画を出したらボツにされそるほど唖然とする日常」の状況なのですが。大森望さんがゲンロンで行っている「SF創作講座」の最終実作も、そんな世の中を反映している作品が多かったです。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/subjects/11/

この中から最優秀作は「ゲンロンSF大賞」として選出されます。いわゆるSF読みとして、賞当てできるような力量はありませんが、気になったところのレビューです。ぜひリンク先から読んでみてください。

(SF)小説は、愉しいものである。

まずは、SFに限らず、小説好きなら得意ジャンルを問わず読み進められそうな作品から。

『わが東京ドームは永久に不滅です』式宮 志貴
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/iioio/4117/

ここに徐福を出してくるとは……中国史や野球の予備知識なくてもどんどん読み進められそうな筆圧高めの作品。

『おねえちゃんのハンマースペース』稲田一声
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/17plus1/4181/
90年代のカルチャーを懐古趣味にせずに2020年に回収してるところが良い感じです。ノストラダムスの五島勉さんもお亡くなりになりましたね…。

『木島館事件』遠野よあけ
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/yoakero/4199/
未来の話で架空のルールを作っているのに、初見でも頭に入ってくるのが良いと思う。この辺りの読ませ方って、ひらマン聴講生で獲た部分なのでは…(元からできてたらすみません)。

SFは、美しいものだ。

以下の3作品は、個人的にはツボでした。でも、もしかしたら一定のカルチャーに明るくないと…みたいなところはあるかもしれません。

『開花の空を飛びましょう–空想科学冒険譚 土蜘蛛とキャラメル–』甘木 零
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/brightsideoflife/4087/
女学生…幕末+SF…尊い…!もう少し、得物や設定にSFっぽい奇怪な部分があったら、戦闘シーンがこれぐらいでも多くの人が満足できると思う。

『踊るつまさきと虹の都市』榛見あきる
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/halme123/4180/
ダンスとSF、そしてラマ。美しい。時代の予見性もあって良い。ただ、東アジア〜中央アジア〜ロシアとの文化・関係性に馴染みがない人にどう読まれるのかは気になります。

『限りない旋律』中野 伶理
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/msx001/4174/
音楽とSF、美青年。音楽が引き金を引いたまま、破滅の予感で終わるところが良い。ピアノはリズム楽器でありメロディ楽器でもある、世界の成り立ちを暴くのにふさわしい楽器ですね。

SFは、日常と科学奇譚の間にたゆたうもの。

時代性を汲みつつ、SFらしい道具を使いながらオリジナリティが強めに現れたのは、これらの作品。

『螺旋のどん底』藤 琉
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/aphelion/4169/
日常と地続きの部分が良い塩梅に出てくるので、奇抜な設定も「あるかも」と思わせる。BLMの、その先を垣間見る作品。

『粘菌の原』宿禰
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/sukune61/4191/
面白いけど、ダ男の……業が、深い……深すぎる……。ヒトは、宇宙空間を旅するようになっても、未だにルッキズムを超えられないのか……。

この「コロナ禍」を直接表現した作品もある。わたしたちの日常がSFめいているのだろうか…?

『蒼子』藤田 青
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/seido/4185/
生々しい「いま」の描写がたくさん描かれている。これを10年後に読んだらどう思うだろう?そう変わらないのかもしれない…そう思うと蒼子の気持ちもわからなくない(!)。

暗喩というか、もしかしたら3.11とも関連してそうな作品はこちら。「優しすぎる」と感じたのはわたしの心が汚れているかもしれない。

『ヒカリゴケと人魚』揚羽はな
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/yamato2199/4194/
ここでの『人魚姫』は『リトルマーメイド』の感じがします。個人的には、犠牲を払ってでも何度でもチャレンジすることに夢を見ている主人公を肯定している感じなのが気になっています。

SFは懐が深い、はず。


さらには、ジャンル的に「SF大賞」には難しいと言われそうだけど目が離せない3作品も。

『うつろね』よよ
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/happanoko/4190/
それは嫉妬なのか、同族嫌悪なのか…性愛への愛憎が爆発した後の「うっとり感」は捨てがたい。文語と現代語の構成の仕方は、キッチリと入るのか、最終的に交わっていくとか、琴の奏とシンクロする感じだとよかったなと思う。

『めめ』藍銅ツバメ
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/mimisen3434/4175/
イヤミス好きの人におすすめしたい。グロテスクな表現が大丈夫な人はぜひ読んでみてください。

『「愛と友情を失い、異国の物語から慰めを得ようとした語り部の話」』宇部詠一
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/ubea1/4172/
私小説的なSF。技術の拡張により世界中の文化が隣における社会に生きる凡夫の物語という意味ではSFなのですが、どう判断されるでしょうか。

もしショート・ショートがあるのなら

短編賞があるなら、個人的にはこちらが選ばれてほしい。

『林檎の贋作』天王丸景虎
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/10kgtr/4201/
もっとタイトにしてショート・ショートにするか、もっとネジレが発生するverも読んでみたいです。

他のことが気になってしまったけど

『国桜』宇露 倫https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/master2core/4162/
桜・月……「お決まり」にさせない腐心を感じた。心理戦の部分が大きいのに、肝心の桜子が何を思っているのかベールに包まれていて不思議でした。

『ある証言たち』武見 倉森
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/kateiumashi24/4198/
たしかに、スポーツとSFは相性が良さそう。ストーリーも面白い。肉体と精神を完全に二元論で考えているけれど、この世界線であれば「そもそも鬱病も脳の病気」と認められているのではという疑問が最後まで消えず…。


『鏡の盾』渡邉 清文
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/kiyo/4148/
『変身物語』が冒頭に入っているが、メドゥーサとナルキッソスの「見ること」に比べて「変身」にはあまり注意が払われていないのが新鮮でした。「エコー」がどこへ行ったのかが気になる…。

『サノさんとウノちゃん』安斉 樹
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/recolored/4200/
個性強そうなキャラクター(サノさんとウノちゃん)に、もっと語って欲しかったです。SFというか青春スポーツマンガに近しい感じかも。

『ファントム・プロパゲーション』古川 桃流
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/furukawa3/4171/
実母の変化の様子や、新山の置かれた立場の悲哀もグッとくる。「アリス」が何ができてどういうものなのか、実体を捉えるのが難しかったです。

『僕らの時代』東京ニトロ
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/tokyonitro/4170/
規程文字数が…大幅に越えているのは、世界への挑戦状かと思ったら感謝のことばが綴られていたのでホッとしています。タイトルそのままの世界が展開されていた。7年前の学生生活を思い出すのに、LINEがもう登場していることに気取られてしまった。読者が狭くなるかもしれません。

『受戒』今野あきひろ
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/akihiro1/4176/
世界観が広いのは興味を駆り立てるのですが、ちょっとわたしには焦点が絞ることができなかった。それが狙いなのかもしれませんが…。

『蘇る悪夢』夢想 真
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/dreamshin/4189/
空白を…わたしに…ください…。もしかしてそれが悪夢ということなのでしょうか…。構成として、3つの夢のボリュームの緩急が気になりました。

『デスブンキ ヌーフのダム』九きゅあ
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/kyua/4160/
もしかしてこれはヴォネガット的な表現?と思い始めて読んでいたのですが、アピール文でやや混乱。3.11とトルコ、水運を結びつけた意図が知りたいと思いました(ついでに、にしては大きすぎる組み合わせかと)。

『手紙』松山徳子
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/tokuko55/4195/
かわいらしいのに毒性がある。「わたし」が外に発しているキャラクターと地の語りにギャップがあって、わざとだとしたら「敢えて外向けに演じている」部分があってもいいと思いました。(後から振り返った感は、冒頭しか感じられず…)

ここから面白そうなのに…

と、おそらく作者が一番思っているだろうことですが、率直な感想です…。

『ムキムキ回転SFおじさん』品川必需
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/hitujyuhin/4050/
ダメ男が面白そう。SFとつながるのが、今のところ名前だけなのですが、どう考えても泣けて笑えそうな予感なので、今後の展開が気になります。

『晴れの海から、泡宇宙へ』泡海 陽宇
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/sugar01/4196/
地球人だけでなく、月兎族の遺伝子も搭載した有機アンドロイドが出てくるなんて…気になる…!

来期は早々に正規受講枠が埋まってしまいましたが、聴講生の枠なら空いているとのこと。講師陣の方々が羨ましすぎて、直視できない……!

もしもサポートいただけたら、作品づくり・研究のために使います。 よろしくお願いいたします。