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少女マンガは、あなたに読まれるのを待っている。/『ティータイムに魔法をかけて』乙女坂 心

雑誌と単行本の関係はフクザツだ。連載もいろいろとあるけれど、特に読み切りの場合、単行本に収録されないままのものがある。きっと過去に「これは」と思いながら記憶の底にしまいこんでしまった作品もあるはずだ。今日はそんな悔悟も踏まえて『りぼん8月号』に掲載の読み切り『ティータイムに魔法をかけて』を紹介したい。(余談ですが、電子版で雑誌にアクセスできるのは、ほんとうに良いことだと思う)

さて、表紙絵にあるコピーはこの通り。〈ここはあなたを 笑顔にする特別なカフェ〉《ぼっち系女子高生・仁愛(にあ)が出逢ったのは、心優しいイケメン店員さん…のハズ!?》というわけで、店員さんに憧れる内気な女子高校生の話だ。
【ここからネタバレあります。先に読みたい人は下記からどうぞ】

【ここからネタバレありますが、あらすじをまとめているわけではありません】

40ページの中で、思春期の悩みと憧れ、葛藤が余すところなく描かれている。揺らぎのある分割線は憧れのカフェの魔法めいた魅力を引き出す。主人公が自己認知を塗り替えて一歩踏み出していくのだが、登場人物とのやり取りで物語が動く様子はリアリティがある。

「女の子」をポジティブにさせる原動力が詰まっていて、掲載誌『りぼん』が昔から持ちあわせている流れを受け継いだ作品。この辺りも読み応えにつながっている。それは例えば……

1)スマホにカフェ写真を収めることで得られるのはマウントではなくて救い。幸せ。癒し。
2)自分を侮らない。できることは悪いことじゃない。むしろ誇れること。嘘をついても惨めになる。
3)居心地のいい場所は、自分で作れることもある。手を挙げたら意外とラク。
4)誰かの役に立ちたいと思ったら、すればいい。偽善とかイイ子ぶってるとか、言わせておけばいい。

といったことがディテールに宿っているのだ。必ずしも性差だけの問題ではない。人の心のありようを「女の子」に仮託して描いている。

この作品が改めて示唆しているのは、「少女マンガ」はノスタルジーに浸るためのものではなく、現前の読者のために存在するということ。「少年マンガ」と同じように、2020年の読者に向けて開かれた存在として、そこにあるのだ。


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