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少女マンガの歴史がつながる日/『総特集 水野英子 ー自作を語るー』

歴史を後から追うのは、いつもジグソーパズルをしているようなものだが、大事なピースが本の中で見つかることもある。この『総特集 水野英子 ー自作を語るー』というタイトルは伊達じゃない。本当に語り尽くしている。ご本人のインタビューやゲストの証言、500点を超える図版、読み切り再録マンガ、年表、作品リスト……いずれも情報量が多く、内容が濃い。

まずは往年のファンに読んでほしい。当時の本を良好な状態で持っている人って、実は少ないと思う。たとえば、母の日・父の日のプレゼントにどうだろうか。特に1970年代前半までの家庭においては、マンガを読むのを禁止されていたり、そこまで余裕のない暮らしも少なくなかっただろう。さまざまな時代を経て、手元に置けるマンガの本が1冊あるというのはうれしいはずだ。

一方で、まだ作品に触れたことがない人にもおすすめしたい。特に、収録された読切作品「夜の花」(初出:『LaLa』1976年11月号)。発表から50年近く経つが、2022年に読んでも違和感がないマンガだ。これはグリム童話から(おそらく「ヨリンデとヨリンゲル」)着想を得た物語。映画や小説の「翻案」は本書でも度々登場する。権利関係が複雑な現在、商業誌がここまでスピーディに自由な展開を行うのは難しい。エバーグリーンな読後感とともに、メディアミックスにおける「マンガ化」とは別の次元が存在したことを理解できる、貴重な収録作だ。

そんなわけで、マンガのみならず日本のポップカルチャーを研究している人なら自動的に買っていい、とさえ思う。それいゆ、西部劇、ピンク・フロイド、バレエ、エリザベートまで(これでも網羅できてない)、水野英子の作品は戦後日本のポップカルチャーを体現している。その振る舞いが普通すぎて、素通りしそうになるのが怖い。

インタビューだけではない。作品リストでは掲載誌の幅が広いことに圧倒されるはずだ。ティーン向け週刊・月刊誌、女性誌、音楽誌……王道からラディカルまで、とにかく長きにわたり雑誌で描き続けた凄みがある。それは、神聖さの表出ではない。誰にもひとときの娯楽を提供するという、マンガの一面を担ってきた実証なのだ。

ところで、ヤマダトモコ氏が本書で指摘している通り、少女マンガ史を語る際、ある種の断絶を目にすることが多い。【手塚治虫は別格だが「24年組」の前の少女マンガは取るに足らない】的な論が繰り返されてきた。当の「24年組」と呼ばれる方々、本書に寄稿した作家を含め、多くの少女マンガ家が影響を受けた作品として水野英子の名前を挙げる。しかし、その頻度に比べると、作品自体が語られることは少なかった。この本は、少女マンガの起源を考えるのに絶好の機会を与えてくれる。ついに、断絶した歴史をつなぐ時が来た。ちょっと勇まし過ぎるだろうか? それでも、これぐらい言わないと気がすまない。それだけの価値がある。

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