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小説「雨雲が晴れたなら・三吉君の事」 投げ銭方式ですので無料で読むことが出来ます。

小説「雨雲が晴れたなら・三吉君の事」


小説「雨雲が晴れたなら・三吉君の事」


アルバイトの三吉君さんきちくん

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僕は、引きこもりから、初めて就職した会社を三カ月で辞めて
しまった。

そんな僕が、次に探した職場で出会ったアルバイトの男の子が、
三吉君だった。

その職場は、観葉植物のリースや造園などをおこなっている
小さな会社だった。


三吉君は、職場では誰に何を言われても、
軽く「コックン」と、小さく頷くと素直に従っていた。

しかし、三吉君が、言われたことが分かって
頷いているかと言うと。

そうばかりとは言えず、理解できていない事だと頷いたまま
その場にじっと立ち尽くすような事もあった。


しかし、三吉君が、サッと動いて何かをやった時でも。

言われた物とは違うものを、嬉しそうに息せき切って
持って来たりする事もあった。


そして、ある時などは、ハサミの刃を研いでいて間違って自分の手を
切ってしまった事もあった。


現場監督の田中さん

それから、皆で手分けをして植栽するような事が
ある時などは。

三吉君も、皆と一緒にしゃがみこんで植えているような
恰好はしていても。

三吉君が、植えている所だけが一向に捗らないような事も
あった。


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しかし、会社の人たちは、みな良い人たちだったので。

「なーんだ。三吉君は、まだたったそれだけなのか。
しょうがねえなー」と言うだけで。

三吉君を、怒鳴ったり怒るような人は誰ひとりいなかった。

会社では、現場監督的立場である田中さんも。

三吉君に対しては、特別注意するような事もなかったのである。

田中さんは、この会社では一番の古参の社員で、社長よりも年上だった。

そして田中さんは、誰に対しても、さん付けや君づけで呼び、何かを
頼む時には「○○さん、〇〇をやってもらえませんか。お願いします」
といつも丁寧な口調だった。

田中さんは、僕を、いきつけの寿司屋に連れて行ってくれて、
田舎の寿司屋には、不釣り合いなワインを飲ませてくれた事などもあった。


そんな雰囲気の職場を、僕は気に入っていた。

何故なら、以前の職場環境とはまるで違っていたからだ。

以前の会社では、休息時間や食事の時間でも、いつも社長が
社員の近くにいてピリピリとした雰囲気を感じる職場に比べたら。

僕のような、引きこもりだった者にとっては。

この会社の自由な雰囲気と、植物を扱う事はどこか気持ちを
ホッとさせてくれる所があったからだ・・・。




ある日の事

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三吉君が職場にやって来て、しばらくたった日のある日の事だった。

その日は、社長と田中さんと、僕ともう1人の四人で出かけた
現場だった。

その日の昼休みの事。

みんなで持参した弁当を食べている時に、社長が田中さんに
三吉君の事を話しはじめた・・・。

「田中さん。三吉君、車の免許を取りに行ったけど
ダメだったらしいんだよね」
と社長が言うと。

田中さんが、
「うん、そうらしいですね・・・」
と頷いた。

続けて社長が、
「やっぱり、車の免許も取れないんじゃ無理だよ。
辞めてもらうしかないよ」
と言った。

すると、普段は社長に対して口答えの様な事は言わない田中さんが、
珍しく、
「でも、社長。三吉君は、真面目にやっているんだけどね」
と言ったのだった。

しかし、社長は、
「いや、普通の人だったら、たいてい車の免許ぐらいは取れるもんだよ。
それに、この仕事を続けていくなら、車の免許が無いと無理なんだよね。
だから、三吉君の為にもね辞めてもらおうと思うんだよ」
と言った。

それを聴いた田中さんは、
「しかし社長。それじゃあ三吉君は・・・」
と言って、なんだか遣る瀬無いような顔をしてうつ向いてしまったのだった。


これは、後になって、その時に僕と現場にいたもう1人の人から、
聞いたことだが。

じつは田中さんには、障碍者のお子さんがいらっしゃると言う事だった。


だから、もしかしたら田中さんは、ご自身のお子さんと三吉君を、
重ね合わせて見ていたのかなと、僕は思ったのだった・・・。


それから、しばらくしての事。

田中さんと僕が、同じ車に乗って2人で現場に向かう事があった。

田中さんが、ある家の前に差しかかると少しだけ車のスピードを緩めて

「ほら、あれが三吉君の家だよ。 今ごろ、三吉君、何をしているかな・・・」

と、少し寂しそうな口調でいったのだった・・・。




雨雲

社長の言う事も、民間会社なら仕方がない事だと思う。

しかし最近の日本社会は、障碍者や、老人を、迷惑をかける邪魔者として
考えている一部の人たちが存在しているように思う。

だから、障碍者を襲って殺めてしまうような嫌な事件もあった。


だが、僕は、この世界に必要のない人間など、ただの一人もいないと
思っている・・・。






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使用画像Pixabayより

2022.2.21 2.22雨雲の部分加筆、
修正 2.23雨雲の部分加筆、修正 2.25雨雲の部分加筆、修正
2.28加筆修正

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