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#51 ウェルビーイングを現場で活かすために - ポジティブ心理学 -

ここでは「ポジティブ心理学」の研究テーマである「ウェルビーイング」について一緒に学んでいきたいと思います。前回の記事では、そもそも「ウェルビーイングとは何か」ということについて一緒にみてきました。

元々、「体と心と人間関係が良い状態」のことを指していたこの概念も、今は様々な定義が存在しているということでしたね。今回の記事では、「ウェルビーイングとは何か」を知った後、具体的に現場レベルで何をすればいいのかについて一緒に学んでいきたいと思います。


どのウェルビーイングに着目するかを選ぶ

まず、前回の記事でも見たように、ウェルビーイング(良い状態)には様々な定義があり、構成要素がそれぞれ異なるため、どのウェルビーイングを高めたいかということから考えていきたいと思います。

例えば、主観的ウェルビーイングというウェルビーイングは「日常生活でポジティブな感情が多く、ネガティブな感情が少なく、自分の人生に満足している状態」のことを指します。どちらかというと感情面に関する良い状態になりますんで、このウェルビーイングを高めたいのであれば、いかに日常生活の中で嬉しい、楽しい経験をし、不安や怒りどのマイナスの感情を感じないようにするかがポイントになります。ですから、極端な話、自分の好きなことをやって嫌なことを避けていたら高まるウェルビーイングになるわけです。

一方、感情面というよりも心理面の良い状態を指す心理的ウェルビーイングというウェルビーイングがありますが、これは「①自分の良いところも悪いところも受け入れられていて、②人としての成長を感じ、③人間関係も良好、④自分の判断で物事を決められ、⑤周囲で起きることに対処できる能力を持ち、⑥自分の人生に目的をもっている状態」のことを指します。ですから、このウェルビーイングを高めたいのであれば、自己受容を促進したり、人生の目的を明確にするために何ができるかを考える必要があるわけです。先程の主観的ウェルビーイングを高める行動とは全く異なりますよね。 

そのため、ウェルビーイングを高めたいと思ったとき、ご自身のコンテクストを考慮しながら、まず「どのウェルビーイングを高めたいか?」を選ぶことから始めることをお勧めします。(前回の記事に、ポジティブ心理学で登場する主要なウェルビーイングを記載しています。選ぶ際に是非、ご参照ください)

各々の要素を10点満点で考えてみる

「どのウェルビーイングを高めたいか?」を決めた後は、今の自分のウェルビーイングの状態を10段階で測定してみましょう。人生の満足感尺度心理的ウェルビーイング尺度など、各ウェルビーイングを測定する尺度(質問票)もありますが、日常レベル、現場レベルのお話であれば、10段階で10が理想的な状態で1が真逆だとした場合、今、何点か?を考えるだけでも意味があります。なぜなら、ウェルビーイングの各要素ごとに10点満点で点数を付けてみると、おそらく、高いものもあれば、低いものもあり、その凸凹から見えてくるものがあるからです。

凸凹が教えてくれるものは何か

例えば、こちらはPERMAモデルのウェルビーイング(日常生活の中で①ポジティブな感情が多く、②夢中になれる時間があり、③人間関係が良好で、④人生に意味を感じ、⑤物事を達成している状態)のグラフです。10点満点で考えてみたとき、各要素でこのような凸凹があったとします。

PERMAの各要素を10点満点で付けてみたら、凸凹ができた

この凸凹を見ながら、今の自分のウェルビーイングについて、この図が教えてくれているものは何だろうか?と考えていくと、非常に深い洞察が得られることがあるんです。

どの要素にテコ入れするかを特定する

例えば、上記の凸凹のグラフ、これは以前、通信制高校の女の子の相談を受けたときに付けてもらったときのグラフです。

この子の相談ごとは、「今、別に何か問題があるわけじゃないし、精神的に病んでいるわけでもないけど、なぜかイマイチ日常がパッとしない」という相談でした。僕はこの相談を伺ったとき、この子の状態を「庭」で例えると、「雑草」はないけど、「花」もない。ただの「さら地」みたいな状態になっているんじゃないかと思い、彼女の「花」の状態を伺うために、PERMAの5つの要素について説明をし、10点満点で付けてもらいました。

すると、上記の凸凹グラフができたわけなんですが、彼女はこのグラフを見て、「あっ」とあることに気づいたんです。それは、「最近、友達ができて、一緒にいる時間が増えたことで人間関係(R)は良くなってるけど、その分、好きなアニメの絵を描く時間が無くなって、何かに没頭する時間(E)が減ったからかも」とのことでした。そして、「毎回、描き上げたときに達成感を感じていたのが、描く時間があまりなくて、そういう達成感(A)も感じられていないのが今のイマイチパッとしない状態に繋がっているのかも」と。彼女は自分自身で今のイマイチ、パッとしない状態をしっかり分析することができたんです。

これ、すごい洞察ですよね?従来の心理学の観点であれば、ストレスチェックやうつ病チェックなど、「雑草があるか・ないか」だけを診ていたため、このように「雑草」はないけど、「花」もないような女の子には対応できなかったわけなんですが、PERMAにしろ、他のウェルビーイングにしろ、このように「花」の要素別に10点満点を付けただけでも様々な気づきが生まれ、ウェルビーイングを高めるために何をすればいいか、どの要素にテコ入れをすればいいかが見えてきやすくなるんです。

「一人で没頭して絵を描く時間(E)」が自分にとって大事なんだと気づいた彼女は、意識してその時間を取り始め、少しずつ充実感を感じられる日が増えていった

+1点高めるためのアクションを考え、実行する

「どの要素を高めたいか?」が決まった後は、ポジティブ心理学の研究で明らかになっている介入やエクササイズを行うのも効果的です。例えば「ポジティブ感情」を高めたいなら、一日3つ良いことを書いてみる。「エンゲージメント」を高めたいなら、今、行っているタスクのチャレンジ度合いと自分のスキルレベルが適切なバランスになるよう調整してみる等、具体的な介入やエクササイズを行っていくことも良いと思います。このやり方に関しては、拙著「ウェルビーイングノート」で、様々なポジティブ心理学の介入やエクササイズを紹介していますので、もしご興味があれば、ぜひ手に取ってみてください。

一方、そのようなポジティブ心理学の介入やエクササイズを知らなくても、今の点数からプラス1点上がった状態を描いて、どんなことが起きれば、その状態になるのかを考えていくスケーリング・クエスチョンも非常に効果的です。今の状態が5点であれば、どんなときに6点と言えるのか、どんなことが起きれば、その状態になるのかを考えていくと、具体的に何をすべきかが見えてきます。そして、その見えてきたものを実施していくことが、ウェルビーイングを高めるための行動になっていきます。

このスケーリング・クエスチョンに関しては、以下の記事で詳細を記載していますので、ぜひ、ご覧ください!

ここまでの内容をまとめると、以下の4つの流れになります。

  1. どのウェルビーイングを高めるかを決める

  2. 各々の要素について、今の状態は10点満点で何点かを考える

  3. どの要素をテコ入れした方がいいかを特定する

  4. スケーリング・クエスチョンを用いて、その要素が今よりも+1点高まるようなアクションプランを作っていく

この順番でやっていくと、シンプルに日常生活で実行できることが見つかると思いますんで、ぜひ、実際に試してみてください!

さて、ここではウェルビーイングを日常生活でどのように高めていくか、について一緒にみていきました。次回の記事では、ウェルビーイングにも関連するモチベーションについて、一緒に学んでいきたいと思います。(つづく)

【参考文献】Matsuguma, S. (2022). Well-being notebook: Solution-focused approach, applying positive psychology. Kongoshuppan.

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Shin Matsuguma | 松隈信一郎
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