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ショートショート/「“胡蝶の夢”異聞」
どこからか蝶がひらひらと舞ってきて、目の前の紅色の花を抱えるようにして羽根を降ろした。
蝶と目が合った瞬間、言葉が伝わってきた。
「君は・・・、僕が見ている夢の中にいるんだよ」
蝶を見つめながら思った。
・・・俺は、夢を見ているのか。
一刻、空白の時が流れ、目が覚めた。
・・・・・やはり、夢か。
ふと前を見ると、視界を遮るほどの大きな紅色の花があり、気づかぬうちに自分でそれを抱え込んでい
実録スピ散歩/「海を渡ってきたチャネラー」
その女性チャネラーは、毎年来日しては約1か月の間、滞在し、日本のクライアントを相手に小遣い稼ぎ、あ、いや違った、個人セッションを行われているのである。もちろん、通訳付きである。
私はチャネラーというのがいささか苦手である。ほとんどのチャネラーは素晴らしい能力と人格を備えておられるとは思うのだが、こちらにはその能力の高低もしくは正邪を判断するすべがない。
だが、今回はこのヒトのセッションを受け
ショートショート/「雲消し」
「先生は空の雲を自在にお消しなることができると伺いましたが、本当でございましょうか?」
スピリチャル雑誌、月刊「パワーフィールド」の編集者は目の前の老人に向かって尋ねた。
この手の雑誌はどうしても同じようなテーマの使い回しにならざるを得ない。
超能力、UFO、宇宙人、古代遺跡、未来人・・・
そのため、何か珍しいトピックはないかとSNS、テレビ、口コミ等に目を光らせるのが、編集者の常となっていた
実録スピ散歩/「失言の導師」
その女性の先生は齢60にして、スリムな体型、お顔はつやつや、シワひとつなく、ショートカットの髪は黒々としてキューティクルてんこ盛り、というような外観を維持なされ、まあ、外人から見れば40台でも十分通じるのではないか、という方であった。
日頃、人間は中身で勝負だ!といってはばからないものの、その実、初対面の人については、その良し悪しを(良し悪しって、しかしw)まずは外見で判断する私としては、「う
ショートショート/「惑星モニタリング文書」
宇宙連合銀河支部の指揮官には、各惑星に関する調査結果のレポートが随時、報告される。本日のレポートは、太陽系第3惑星「地球」の生命体である「人間」の行動傾向に関する調査結果だ。
「まずはリストをご覧ください」
調査員は空中スクリーンにレポートの一部を映し出した。
カジノ、競馬、ロト、宝くじ、パチンコ、スロット・・・
途中まで目を通して、指揮官は調査員に尋ねた。
「これらは何のリストかね?」
ショートショート/「食物連鎖」
自己啓発セミナーを主催する男の下に、部下の一人が慌てた様子で駆け込んできた。
「先生!11月からのセミナー料金の30%値上げ、生徒さん達が猛反対です!」
「だって、しかたないだろ。私がひそかに通っている覚醒セミナーの授業料、11月から倍に値上げされるんだから・・・」
ショートショート/「1人勝ち」
「ポイントは、すでにそれは実現しているのだ、というイメージの強さです」
<誰も言わなかった引き寄せの超法則>と銘打たれたセミナーで、会場を埋め尽くす参加者を前に講演者は熱く語った。
「引き寄せの対象は当然、人によって異なります。
釣りに行くとします。ある人は鯛を釣りたい、別の人はマグロを、またある人はアジかもしれない。人によって望む魚は異なります。でも、その魚は全く同じ海の中から釣り上げられる
実録スピ散歩/「バイリンガルの覚醒者」
覚醒したといわれるその女性の先生はバイリンガルなのである。
昔は同時通訳をやられていたこともあり、また、その通訳が大変素晴らしいと評判でもあった。
しかし、あまりに英語が達者であるがゆえ、通常の会話の中で日本語と英語がごっちゃになることがあるのであった。
新幹線のグリーン車を、グリーンカーとオサレな表現でおっしゃったりするのである。
セミナーが開催されたその日も、なかなか趣のある表現を耳にする
ショートショート/「乗っかり上手」
「2023年・・・。
それまでが覚醒の最後のチャンスになります。
その年以降、人間界は覚醒組と非覚醒組の二手に明確に分かれ、お互いが交わることはなくなるでしょう」
元々、話の上手な女性チャネラーではあったが、その主張をメインにしてから、彼女のセミナーは毎回、何十人ものキャンセル待ちを数えるほどの超人気セミナーとなり、収入も急激に増大した。
これでいい・・・。
この調子なら2023年の末までには
ショートショート/「蜘蛛の糸2021」
DNAは争えない。
カンダタの孫であるクンダタもまた祖父と同じく、生前に犯した数多くの罪で血の池地獄に落ちていた。回りには、クンダタが生前泣かせた女たちの怨念と恨みの思いが無数の般若となって蠢いていた。
地獄に墜ちて三日三晩、般若たちに足を引っ張られ、池の中に頭までずっぽり沈んではまた浮かぶ果てのない苦しみに喘いでいたが、ふと気づくと、天界から一本の金色の糸が静かに降りてきていた。
「こ、こい