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実録スピ散歩/「バイリンガルの覚醒者」

覚醒したといわれるその女性の先生はバイリンガルなのである。
昔は同時通訳をやられていたこともあり、また、その通訳が大変素晴らしいと評判でもあった。

しかし、あまりに英語が達者であるがゆえ、通常の会話の中で日本語と英語がごっちゃになることがあるのであった。
新幹線のグリーン車を、グリーンカーとオサレな表現でおっしゃったりするのである。

セミナーが開催されたその日も、なかなか趣のある表現を耳にする機会に恵まれた。
様々なお話の中で超常現象に言及された際のことである。

「霊体が物理的な現象を出すこともあり得るわね。映画でもそんな演出あるでしょ。
ほら、何だったっけ?あの女優のデミ・ムーアが主演している昔の・・・」

先生は映画のタイトルを思い出せなかったらしく、しばし空中に視線を泳がせていたが、目を軽く見開いたか思うと、自信満々にこう続けられたのである。

「『幽霊』・・・、ね」

司会兼アシスタントの女性は滅多なことで、お話の途中で質問したり、ツッコミを入れることはないのだが、このときは、さすがにこれはいかん、と思ったのであろう。
慌てた様子で、右手で小さなメガホンをかたどり先生に向かってそっと囁く。

「先生。ゴ、ゴースト・・・です」

すると、控えめなささやき女将(ふるいっ!)の指摘に、先生は慌てず騒がず、
「で、そのゴーストのシーンの中でね・・・」

まるで何事も無かったかのように、平然と話を続けられるのであった。

参加者ももちろん、事の次第を承知はしていたが、相手は先生である。こちらも何事も無かったかのようなそぶりで、お話の続きに静かに耳を傾けていたのであった。

先生、アシスタントそして参加者、見事なパス回しによる理想的な連携プレイといえよう。かつての日本ラグビー「ONE TEAM」を地で行くナイスなトライである。

だが、いつもは地震、カミナリ、火事、先生と畏れ、ご崇拝申し上げていたこの私も、さすがにこのときだけは心の中で、ひそかにこうツッコんだ。

「映画『幽霊』って・・・、番町皿屋敷かよ」

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