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実録スピ散歩/「海を渡ってきたチャネラー」

その女性チャネラーは、毎年来日しては約1か月の間、滞在し、日本のクライアントを相手に小遣い稼ぎ、あ、いや違った、個人セッションを行われているのである。もちろん、通訳付きである。

私はチャネラーというのがいささか苦手である。ほとんどのチャネラーは素晴らしい能力と人格を備えておられるとは思うのだが、こちらにはその能力の高低もしくは正邪を判断するすべがない。

だが、今回はこのヒトのセッションを受けてみようと決意したのだ。理由は、私が尊敬申し上げていた、さる覚醒者が「彼女は本物だ」と仰ったことにある。何でも、このチャネラー、クライアントの前世が確実に見えるらしいのだ。

覚醒者の言葉は一も二もなく信じてしまう私である。

大友克洋の名作アニメ「アキラ」に登場する鉄雄は私がモデルだったのだ、と言われれば、そのことをSNSで「ここだけのハナシだが実は・・・」と拡散してしまうし、富士山は2019年に噴火するはずだったのだが、私が祈りの力で止めたのだ、と言われれば、「うちの先生が日本を地獄から救ったのだ」と、友人知人に言いふらし、気が付きゃ、独りぼっちになってしまうのである。

その覚醒者が太鼓判を押すからには、このチャネラーにお目にかからないという手はない。
で、早速、セッションの予約を一発かまして、そのチャネラーに会いに行ったのである。

私は前世を見てもらうつもりで行ったのだが、チャネラーは前世透視の前に、まずはクライアントの今の状況を占う、というのである。

え?占い?チャネるんではないのか?と訝しがる私をよそに、チャネラーはおもむろにバッグの中から大判のサロンパスの箱を取り出したのであった。

サ、サロンパスぅ?いや、よーく見るとそうではない。何だかトランプのようでもある。
ははん、わかった!タロットだ!!

と、彼女が口を開く。
「このカードね。色んな動物が描いてあるんだけど」

タロットじゃなくて、ど、どうぶつ占いぃ~?
意表を突くアタックである。
これって、100円ショップとかに置いている12支の占いのやつを30枚くらいに増やしただけとちゃうん?

ほんで、これで占ったとしても、まあ言うたもん勝ちの世界やん?
言われたことを否定でけへんし。あんたの先祖は織田信長の遠い親戚の飲み仲間の、そのまた隣の家のオッサンやったんやでぇ、ちゅーのと一緒とちゃうん。

うーむ。めっちゃ、大阪弁になるのである。ツッコミといえば、やはりこういう口調にならざるを得んのである。

「好きなカード、2枚引いてくれる?」

扇状に広げたカードの中から選べ、という指示に従い引き出してみると、黒豹と馬であった。それに対するチャネラーのご託宣であるが、まあ、他愛もない内容だったので、何とここはカット(チョキチョキ、っと)してしまうのである。

ただ、いくら他愛もない内容とは言っても、選んだカードが黒豹と馬だったからといって、「あなた、(黒豹のように)目つきは悪いけど、(馬のように)足は速いでしょ」というほどイージーではなかったのだが、まあまあ、それに近いもんだと言ってもバチゃあ、当たるまい。

そんな流れから、「彼女は本物だ」と仰った覚醒者の言葉にかすかな疑念を感じ始めた私であったが、重要なのはこの後なのだ。前世を見てもらうために今日はここに来たのである。

「あ、あなたの前世は、空海ですっ!」
あるいは
「今回は日本に生まれ変わられたのですね!お目にかかれて光栄です、アーサー王」

あらぬ妄想をしながら、思わず頬がゆるんでしまう私であった。

「では、前世を見てみましょう」
「はい!お願いします!」
校長先生を前にした素直な小学生のように、突然かしこまる私。

「ただね。まあ、前世ってはっきり見える場合もあるし、何だかぼやっとしていることもあるのよね。」

ん?話が違う。かの覚醒者が前世を見てもらった時は、相当に詳しい内容だったと聞く。

これではまるで、「絶対儲かる鉄板銘柄」と推奨株を紹介しておきながら、1mmぐらいの見えるか見えないかわからん大きさの文字で「但し、必ずしも利益を保証するものではありません」という免責事項が表示された怪しい株屋のホームページではないか。

事前に言い訳をするな、言い訳を!このオバハン、ホンマに本物か?思わず心の中で、チャネラーをオバハンと毒づいてしまうのであった。おとなしい小学生からいきなり品の無いオッサンに変身してしまうのである。

一方で、怜悧且つ論理的な頭脳を有する私はこうも考えたのだ。

待てよ。あの覚醒者の前世はちゃんと見えたはず。ひょっとするとだが、人間としてしっかりしている、あるいは明確な人生目的等を持っている人間については、その前世も読み取りやすくなるのではないだろうか。

一方、日頃、大した人生観も人としての明確な意思もなく、ぼやっと生きている人間については、やはり、ぼやっとした前世しか読み取れないのかもしれない。
我ながら、鋭い分析と推理を行う私であった。

しかし・・・、とさらに私は考える。もし仮にそうだとして、自分の前世について、「うーん、ぼやっとしているわね」と言われたら・・・。
だが、私は自分なりにこれまでの人生をしっかり生きてきたつもりだ。
自信を持て!大丈夫だ!と、何とか己を鼓舞してはみるのだが・・・。

「いや~、今日は大変参考になりました。前世の方はもういいです」

席を立って帰ってやろうかと思ったのだが、そこはそれ、金を払った分は、何としても回収せんと気が済まん、という俗人根性丸出しの思いの方に軍配が上がったのである。

やがて、チャネラーの前世透視が始まった。
私の方を見て、何事かうんうんと軽く頷くチャネラー。まるで私の後頭部あたりにあるスクリーンを見ているような視線と表情である。そして、軽く目を閉じる。

ゴクリと唾を飲みこむ私・・・。
ほどなくチャネラーが再び目を開けたかと思うと、ついにその口を開いた。

「うーん、ぼやっとしているわね」
「・・・」

顔では平静を装っていたものの、私の魂は半開きになった口から抜け出し、天井を仰ぎみた状態で見えざる化石と化していく。その化石の周りを、オフコースの名曲「さよなら」がサラウンドステレオの葬送曲のように取り囲む。

♪もう、終わりぃ~だね~、君が小さく見えるぅ~

チャネラーが続ける。
「なんだか見えるような、見えないような」

小田さんのもの悲しげな歌声が続く。
♪まるでこんな日がくるぅとは~、思いもしーないでぇー

さらにチャネラー。
「ちょっと・・・、わかんないわね」

小田さん絶唱。
♪さよなら~、さよなら~、さよならあぁぁ、もうすぐ外は白い冬~

まるで白い雪で覆われたように青白く変色した顔で、私は心に誓ったのだった。
金輪際、前世なんぞ見てもらうもんか!

メインイベントが終了し、もはやこの場に用はないとばかり、風呂敷片手にスタコラさっさと帰ろうとした私にチャネラーが声をかける。

「週末なんだけどグループセッションがあるのよ。セッションといっても遊び半分でまあ、パーティみたいなものね。良かったら、いらっしゃらない?」

化石化した手足にはまだ温もりが戻ってきていない。両手をこすり合わせながら考えていると、彼女はこれが殺し文句だと言わんばかりに、こう続けるのである。

「グループセッションは女性が多いの。華やかですごく楽しいわよー」

チャネラーの目には、まるで私が独り身で彼女もおらず、こうやって精神世界を彷徨い歩くしか能のない哀しい男、とでも映ったに違いない。

女性が多いとでも言ってやれば、こやつはひょいひょい参加するだろうと睨んだのだろう。全くもって失礼な話である。チャネラーか何か知らんが、他人様のことを何だと思っているのか!

だが驚くなかれ、何と、事実は全くその通りであったという、これまた輪をかけて哀しい現実もそこにはあったのだった・・・(涙)。

見透されている・・・。この身の惨めなありようを視てとることなんぞ、彼女にとっては赤子の手をひねるに等しいことだったのだ。やはり、やはりチャネラーの能力をみくびってはいけないのだ!!

部屋を出ていく際、ドアのノブに手をかけながら、私は深く確信したのである。

「彼女は・・・、本物だ」

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