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北斗七星を目指し自由行きの列車に乗れ。(ハリエット・タブマンの人生)

作家コルソン・ホワイトヘッドは、2度のピューリッツァー賞を受賞している。『The Nickel Boys』と『The Underground Railroad』だ。

『The Underground Railroad』(邦題『地下鉄道』)は、全米図書賞も受賞。映画化とドラマ化もされている。

コルソン・ホワイトヘッド氏

地下鉄道とは何なのか。

19世紀。アメリカ南部の黒人奴隷の一部が、先んじて奴隷制が廃止されていた州やカナダに、亡命していた。それをサポートしたグループがあった。その組織の名前が「地下鉄道」だった。

ホワイトヘッド氏の小説には、実際に列車があったという点で、フィクション要素が追加されている。

今回の話と歌詞がリンクしている歌。カーティス・メイフィールド氏などの黒人バンドの歌だが、あえて、白人歌手が歌うバージョンを紹介。よい歌はみんなのもの。


ここまで読んで。小説や映画やドラマを観てみたくなった人は、私の文章を読まないでそちらを楽しんでほしい。ネタバレするからね。

ちなみに、ドラマの方がオススメ。(これを書いている時は)Amazonプライムで追加料金なしで観れるし、原作者が最初に製作に同意したのは、より長く・細かく描写できるドラマ版の方だったそうだから。

歴史的事実を知ってから観たい・前知識を入れてから観たい派の人は、続きを読んで。


物語の主人公は、アメリカの農園で生まれて、奴隷として生きてきた少女だ。

母親は、彼女がまだ幼い頃に、脱走した。

残された娘も、自身が拷問を受けたり他奴隷が火あぶりにされるのを見たりして、母と同じ道を選んだ。

地下鉄道に乗って逃亡した。

脱走奴隷を捕まえることで金を稼いでいた男に、執拗に追跡される。

ハリエット・タブマン氏
この物語の主人公は実在した人物である。

カニエ・ウエスト氏は、インタビューで、奴隷制は黒人が選択したものだと語ったことがある。

「自ら壁をうちくだけ」的な意味あいがあるのかもしれない。ただ、とにもかくにも言い方が下手で。その系統の発言をすることで、彼はたびたび炎上する。

人種で意見が一丸となっているべき、とまでは私も思わない。人それぞれ違ってよい。

けれど。やはり、多くの人々が苦しんだこと・誰かが悲しい想いをする可能性が高いことに対しては、慎重に発言をしたいものだ。

まず知らないと、気づかうこともできない。

私の尊敬する女性の1人浅田真央さんは魂が成熟した人であるため、怒ったりせずうまい笑い話で返した。
切り取りはよくないことだし、それ相応の流れがあってのこの発言だが。悔し涙を浮かべる人らの映像を見た。当事者にしかわからない想いというのはある。言い方の違いで、言葉のナイフは人の魂にまで達してしまう恐れがある。

今の世の中、私が思うに、みんな怖がっている。

今少しでも言いたいことをひかえたら、いつか、全く自由に発言できなくなるのではないかーーと、そんな風に。

私は、漠然とだが、そんなことにはならないと思っている。

気づかいを受けた人は、気づかいで返そうとする。人にはそういう性質がある。これは、憎しみが憎しみを生み出すの真逆であり、同じ路線上の話でもある。


『進撃の巨人』
サシャ「ところで、あなたの肌はなぜ黒いの?」

アメリカで最も人気のある、日本のマンガやアニメ作品は何か。『Attack on Titan』である。次は、『HUNTER × HUNTER』の「蟻編」だ。もちろん、ある時点での話だが。

サシャのこの発言部分への、海外視聴者のリアクション動画を貼っておく。

まず、「おいおい、なんてこと言うんだよ」と苦笑いする。話の続きを聞くと、その通りだ・いい話だなと同意しはじめる。「生まれてはじめて黒人を見た黒人以外の人は、なんで黒いの?って思うのかもしれないな」と、かなり寛大な反応の黒人さんも。


ドイツ人の青年に、なぜ若いのにすでに頭髪が頭から退いているのですか?と聞いてしまったことがある。高校生の頃、私の乏しいドイツ語がまねいた悲劇である。いや、聞きたいという欲求自体がイカれていた。サシャじゃないんだから……笑。

幸い、彼は爆笑してくれ、詳しい解説までしてくれた。その人曰く。自分たちはみんな「そう」なるので、なるかならないかではなくどうなるかが重要で、理想はM字型だそう。

髪が頭から退くって笑笑。(ひかえめだといわれている)日本人のくせに、誰よりも率直に聞いてきたな笑笑。……本当に申し訳ない。


『進撃の巨人』つながりで、壁の話をする。

分離壁。壁の向こうで銃を構えているのはイスラエル軍の監視役。
ヨルダン川西岸の分離壁。高さ8m。

壁にはドアがついているが、自由に開閉できない。すると、秘密裏に、向こう側へ通じるトンネルを掘ろうとするかもしれない。(私が今しているのは人の心理の話)

占領下。壁の内側の人々は、自分たち主導の産業を育成していけない。労働許可証をもって、イスラエルへ出稼ぎに行く日々。また、イスラエル政府や軍への抵抗は、その許可証を失う原因にもなる。

このように、壁は目に見えるものだけではない。


可視化されていないのだから、想像力をはたらかせてみないとわからない。

自分とは全く異なる状況を考えるというのなら、特に、高いイマジネーション能力が必要だろう。

能力とはいったが。気づかう心をもつことで、かなりカバーはできると思う。


イスラエルとパレスチナの分離壁に描かれた
バンクシーの絵。

バンクシーのパレスチナへの関心は深い。何度も訪れているそうだ。監視兵に狙撃される危険のある中、描いていたという。本当にそうだったのだと思う。誰も、彼はバンクシーだ!などとわからないのだから。

バンクシー関係者が「ノーコメント。これがバンクシーだという映像は他にもいくらでもある」と表明した、20年前のバンクシーの映像(真偽不明)。英国のテレビ局が数年前に公開したもの。

武器がなく、投石で対抗しようとする人たち
壁の正面にある宿泊施設「THE WALLED OFF HOTEL」(壁で遮断されたホテル)。これもバンクシーが建てた。

前置きが長かった。ハリエットの話をしよう。

20ドル札の肖像をハリエット・タブマン氏に変更する計画。オバマ政権時に発表され、トランプ政権時に白紙に戻され、バイデン政権下にて再計画されている。

トランプ氏は、はいきた!ポリコレ仕草wwと否定した。ざっくり言えばもなにもない。本当にただこう言った。

たしかに、政治的なパフォーマンスであることは否めない。だが、その理屈で言えば。これを取り消すという行為もまた、政治的なパフォーマンスであろう。

水をさしたくはないが。そもそも、象徴ではあっても真髄ではなかろう。ハリエット本人の夢も、自分の顔が紙幣に印刷されることなどではなかったはずだ。

実現すれば。米ドル紙幣に採用される、初のアフリカ系アメリカ人女性となる。

想像図

これは物語ではない。

19世紀アメリカ、メリーランド州の黒人奴隷として、※アラミンタ・ロスは生まれた。

幼い頃に一度、虐待で死にかけている。その時の頭部への打撃は、彼女に後遺症を残した。生涯、てんかんに苦しんだ。

家族(同じく奴隷)と暮らしていたが、散り散りによその農場へ売られることになり、その前に逃亡を決意。

物語の実写化の1シーン

奴隷の逃亡を助ける組織「地下鉄道」のサポートを借り、奴隷制が廃止されていた州にたどり着くことができた。


自由黒人 ハリエット・タブマン と改名し、自身も組織の一員になった。

ハリエットは、「奴隷泥棒」と呼ばれた一方で、「黒人奴隷のモーセ」とも呼ばれた。

指名手配された。多額の懸賞金をかけられた。彼女の居所を問われ拷問された妹は、殺された。ひどい……

約150人の黒人兵士を率いて、南北戦争にも参加。それも生き延び、女性参政権活動にも従事。高齢者と貧困者の家として、木造の施設を建設。そこでさらに働いた。

跡地

臨終の際は、仲間や助けられた人たちや支援者が、この施設に集った。ハリエットは、生涯、人道主義者であり公民権運動家であった。


前述したとおり。地下鉄道といっても、実際に地下に列車が走ったのではなく、秘密の脱出ルートの通称だった。

引率者は「車掌」と呼ばれていた。それがハリエットだった。

食料や衣料品や隠れ家を提供する者たちがいた。特殊なネット・ワークでつながっていた。

彼女は南部と自由州を20回往復した。約300人の奴隷を逃がした。彼女の往復は13回で約80人を逃がした。など、諸説あるのだが。

率いた全員が目的地にたどり着いたこと。これは事実である。

彼女自身がハッキリと、そう述べた。どうせ綿密な記録などないのだから、彼女の言葉を信じよう。

「私は地下鉄道の車掌を8年間つとめたが、列車を線路外に走らせたことはないし、乗客を失ったこともない」


性別は関係ないーーではない。もっとだ。

彼女は、肉体的に男性より弱い部分を信念でカバーしたのだから。ファッション・アイテムなどではない、これがガチのブラック・ソウルだろう。

以下は、自由州に足を踏み入れた時のハリエットの言葉だ。

「その一線を越えたことを知った時、私は自分の手を見て、自分がそれまでと同じ人間かどうかを確かめた。木漏れ日が黄金色に輝き、野原をおおいつくし、天国にいるような気がしたからだ」

この気持ちをみんなにも体験してほしい、と願ったか。

ハリエットは、神への揺るぎない信仰をもっていた。

自分の魂に直接語られた神の声に、これほど信頼を寄せている有色人種には出会ったことがない、と周囲の白人を驚かせたそうだ。


闇夜にまぎれて移動することは、しばしば、最善の逃亡策だった。

奴隷は、地図もコンパスももっていなかった。

真北と自由への道しるべは、輝く北斗七星だった。読み書きはできなくとも、夜空の星々なら読むことができた。

こんなことを言ってしまいたくなる私がいる。
星々は彼らにミカタした。


自由を手に入れるまでの現場での作業というカード

こんな風に、イラストでサポートした人がいたのだろうか。リサーチ不足でわからない。申し訳ない。

事実、多様なグループからの援助があった。

“労働からの逃亡者” をかばうことは、合衆国憲法と連邦法の両方に、違反するものだったが。


「全ての素晴らしい夢は夢想家からはじまる。世界を変えるために星に手を伸ばす強さ・忍耐力・情熱が、自分の中にあるということを常に忘れないで」 

〆に。私もたまにはポエムを書こう。

北斗七星を目指し暗闇をひた走り
それぞれのステーションを見つけたら
夢への切符だけを握りしめ
自分が信じた列車へと乗りこめ
その先で夜は明ける


その者青き衣をまといて金色の野に降りたつべし
失われた大地との絆を結ばん

このことを考える時。ナウシカの「シリウスに向かって飛べ」が、単なる方向指示よりもっと意味深く聞こえてくる。

以前に書いた関連回。よかったらこちらも。