「生きるヒント」 五木寛之
「ふつうの人間の、ありふれた生活の片隅に、小さな真実のカケラを見いだし、それを生きていく上のささやかなヒントとして役立てることができないだろうか」
「生きるヒント」 五木寛之
本棚の奥の方にあった五木寛之さんの「生きるヒント」
何十年も前に買って一度読んだと思うのですが、ほとんど内容を覚えていませんでした。
何十年かぶりに読んでみると、今の自分にちょうどよく、心地いい文章でしたので、毎日寝る前に少しづつ読みました。
この本は、話し言葉のように書かれていて、各章ごとにテーマがあります。歓ぶ(よろこぶ)、惑う(まどう)、悲む(かなしむ)というように。
この本の解説で、岡田幸四郎氏はこう書いています。
テーマに寄り添いながらの、旅の話や歴史の話、買い物の話、映画の話、生死の話など、五木さんが目の前でおしゃべりをしているようなエッセイ。
まさに
空間と時間を超える旅をしている感覚であり、読んでいて癖になる安らぎがありました。
五木寛之さんは、このように語っています。
生きていくための思想や哲学をしかつめらしく語っているのではなく、日常を語る中に煌めくヒントが散りばめられていて、どこを掬い取るかは、読者に委ねられます。
僕はこの話のヒントから真実のカケラを探りました。
五木さんは、若いときからずっと考えてきたテーマが2つあるのだといいます。
落ち込んだときは、この2つのことをよく考えるのだそうです。
そして
いつかは、必ずその問いを自ら自分に聞かないといけないときがくると。また、そのことを、できるだけ早い段階で問答をくりかえして生きる方が幸せだと語っています。
どういうことかといいますと
私たちは必ず生まれた瞬間から死に向かっています。これだけはどんな人間にも逃れられません。
たとえお金がたくさんあっても、有名であっても、王様であっても、独裁者であってもです。
それに加えて、どこにどのような条件で生まれるのか、いつこの世を旅立つのか、それもまったくわからないのです。決められた見えないレールの上を走っていくしかないのです。
それらのことをよく意識すべきだというのが、五木さんの考えなんですね。日頃はそういうことを思わず、意識の隅に浮かび上がってこようとするとそれらに蓋をしめてしまう人ほど、晩年になって人生の不条理が出てきたときに直面したときのショックは大きくなるのだと語っています。
さらに
よく意識し、よく考えれば考えるほど、人に対してやさしくなれるように思います。
そのやさしさが、この本の最後の五木さんの文章に漲っていました。
僕はこの文章に慰められました。
「生きる力」として。
【出典】
「生きるヒント」 五木寛之 角川文庫
いつも読んでいただきまして、ありがとうございます。それだけで十分ありがたいです。