「つばさものがたり」 雫井脩介
「お姉ちゃんもみんなの喜ぶ顔が見たかったし、 がんばってケーキ屋さんになったの・・・・・・すごいでしょ?」
「つばさものがたり」 雫井脩介
命の限定を意識したとき、人はどう感じるのでしょうか?
人によってそれぞれ違うのでしょうが、少なくとも僕はこの物語の主人公の気持ちが痛いほどわかりました。
君川小麦(26歳)は、東京の有名店「パティスリー・ハルタ」のパティシエール。6年ほど勤めた時、乳癌の再発と診断されました。
かつて同じ店でいっしょに働いていたフランス帰りの五条朋彦から新規店のスーシェフにと誘われたのでしたが、病気のことで悩み、その話を断って、実家の北伊豆へと帰りました。
いつか母といっしょにお店をやりたい夢があった小麦は、家族に後押しされ地元でケーキ屋を開く決意をします。家族には病気のことを隠して。
彼女のお母さんと、兄・代二郎の奥さん道恵と、新たに雇った松岡さん、3人の女性といっしょに「君川洋菓子店」を開きます。
彼女の兄・代二郎と道恵夫妻には、まだ幼い息子の叶夢(かなむ)がいました。
叶夢はこの店を開く時、こう言いました。
父の代二郎は叶夢に
叶夢にはレイという名前の天使がそばにいて、レイを見ることができ、レイと友達だと言うのです。
2人とも、子どもが言うことだから気にも留めませんし、レイの存在も信じていません。
そうこうしているうちに、オープン当日。
初日は大盛況。
しかし
翌日以降、売り上げは下降していきます。
小麦は自分の命がいつまで続くのかわからないので、がむしゃらに働きます。無理をします。休みの日に抗がん剤を打って、気合いで働きます。
義理姉の道恵に小麦は、自分の後を託せるように辛くあたってしまいます。きびしくケーキづくりを教え込みます。
道恵は、そのことをよく思いませんでした。やがて2人に溝ができます。
小麦は自分自身の病気を語らず、自分の思いだけで突っ走ていました。まわりのことを何も気遣っていませんでした。
気がつくと、売り上げが深刻な状況に陥っていました。ケーキがたくさん売れ残りました。お客さんがどんどん遠のいていきました。お給料が払えなくなってきました。負のスパイラルに巻き込まれていました。
叶夢の言ったとおり、お店を維持できなくなるのでした。
自分の体調も最悪。
お店は潰れ、絶望の小麦。
家族はようやく、彼女の病気に気づきます。
店をやめてからも、小麦は好きなケーキをつくり続けました。
それを近くで見ていた家族は、もう一度再起することを彼女に決意させます。
「自分ひとりで生きているのではない」
「みんなに助けられて生きているんだ」
とわかった彼女の逆転劇が、ここからはじまります。
小麦は、叶夢と話します。
小麦は、新規店とケーキの新メニューづくりに着手しました。
今度のお店の場所は、叶夢にもいっしょについてきてもらい、レイの指示を仰ぎます。
店の名前を代二郎が考えます。
道恵もパティシエになる覚悟を持って、
義理姉をサポートします。
物語の前半は、家族やまわりを巻き込んで小麦一人が自分の思いに突っ走ているその姿がとても痛々しく、それが美徳でもあるような感覚に、読んでいてとても辛い気持ちが続きました。
家族の支え、家族のあたたかさ、それを小麦が本当に理解したとき、物語が加速していきました。
新しい素敵な従業員も増え、小麦が想いを寄せていた五条朋彦にも自分のケーキを食べてもらえました。
後半は読んでいて、同じ家族のような視点になって歓喜しました。天使の好きなオーラが出ているような気がしました。ケーキをいっぱい食べたくなりました。
そして
このまま小麦が生き続けてほしいと願いました。
でも
確実に彼女の命は・・・
天使のレイが見えたとき彼女は・・・
叶夢の純真さ、天使のオーラ、家族の愛に包まれて、この物語は終わりました。とても幸せな気持ちでした。
精一杯、悔いることなく生ききったあとには、天使が安らかに導いてくれるのだと、この物語を読んで思いました。
きっと
夢を追って精一杯頑張っている人たちすべてに、飛翔するための素敵なツバサが与えられることでしょう!
【出典】
「つばさものがたり」 雫井脩介 角川書店
いつも読んでいただきまして、ありがとうございます。それだけで十分ありがたいです。