又糸 礼

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神様

#創作大賞2024 #ミステリー小説部門 第十九話 最終章 いつものスタバで待ち合わせをして、あきとを待っている。 あきとと、感動の再会を果たしてから二週間。 と言っても、あきとであることは誰にも内緒だ。 顔も名前も変えている。今の名前はタケルだ。 あきとと私は付き合い始めた。きっと私の弟は言うだろう。 タケルさんて秋斗さんにちょっと似てるよねって。私の弟の勘は、誰より鋭いのだ。 でも顔も違うし、きっと本当に気づくことはないと思う。 花屋兼カフェのようなところで働いてい

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      #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 第十八話 「あーもう、ファンタメロン吹くかと思った。吉井さん、あきとが生きてるって事ですか?」 「そうですね、死んだことに、秋斗さんがしているので、大きな声では言えませんが。」 「っていうか警察の内部情報しゃべっちゃっても大丈夫なんですか、って、警察じゃないんでしたね。」 「はい、警察は全然ここまでの情報たどりついてませんね。」 ふー、わからない、いや、わかるけど。 再び顔を手でおおい、指でまぶたに触れる。 「ええと、あきとの死

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        #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 第十七話 「はい。」 「あきとって何で死んだんですかね?」 吉井さんを見る。 「あきとって、悩みとかなさそうに見えたけど、そりゃ悩みがない人なんていないけど、やっぱ親の半グレの世界に巻き込まれて、生きてきたんですかね。」 「そうですね、佐藤秋斗さんは、半グレ世界に巻き込まれてました。大学に入るまでは、裏で悪い事を手伝うこともありました。それが大学に入って、後悔しはじめて、もがいて、そうですね、主に覚醒剤を紛失したフリをしたり犯罪を

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          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 第十六話 「おはようございます。」 「お、おはようございます。吉井さん、あの、、」 「佐谷さんの昨晩の記憶は消して、書き換えてあります。」 「書き換えて、って、あ、そうなんだって、ならないんですけど。」 「とりあえずお知らせしておいた方がいいかと思いまして。」 「あの、、えーっと。」 だめだ。聞きたいことがありすぎて逆にない。 「とりあえずちょっと、外に出て、あのもう今日大学の講義休むんで、えーとマックにでも。マクドナルド。あ、警

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          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 第十五話 次の日、美紗緒は大学に来た。 何と声をかけたらいいのかと思いながらも「おはよう」と言うと、 「あっ香里おはよう。」 よかった。私を心配させない演技にしても元気そうだ。 「疲れてない?体も大丈夫?」 「え、何?」 キョトンとした顔をする美紗緒。 しまった。変なこと聞いちゃったか。 「それよか聞いてっ香里ありがとう。契約書返ってきてん。」 「え?何?」今度は私がキョトンとする番だった。今ふうに言うなら私のターンだ。 「契約書

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          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 第十四話 う。 スペシャル中華。いいとこついてきたな。 「いやでも、そんなの何かのきっかけで、たまたま知りえるし、あきとの捜査で大学来てたなら、吉井さんがたまたま食べたとか。」 「秋斗さん、、今中さんに、スペチュードクって言われてましたね。これが親父ギャグかもしれないですね。」 スペチュードク。その会話を知っている人はいないはずだ。 何で知っているんだろう。あきとがいなくなる前の会話。 もしかしたら 「もしかして本当に神様なんです

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          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 第十三話 「え、、」 「え、、」 「え、、」 人生最大のフリーズ。 神様って? えっ やっっばっ やばいやばいやばいこの人。 頭おかしい人と車内で二人。って絶対やばいじゃん。降りないと!何か言って降りないと!でも美紗緒は?車に乗ってたら最低でも美紗緒のとこには行けるよね? って何でよ、頭おかしい人なら行けないって。 あっもしかしてギャグみたいな?ここ笑うとこだった? あ、冷静に考えればそうか。と全一秒で考え、 「はは、

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          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 第十二話 逃げられない。 絶望と必死さの中。 ガチャっとドアが開いた。 仲間がやってきたんだ、どこかに連れて行かれる、瞬間そう思ったけれど、 その人は言った。 「何をやってる!」 声のほうを仰ぎ見た。 なにか、見たことがあるような、あ、 「吉井さん!」 仙崎は不審そうな顔をしている。 「誰?吉井?」 「吉井さんは警察のかたです!」私は答えた。 「警察?適当に言ってんじゃないの。」 吉井さんは警察手帳をさっと見せて胸ポケットのあ

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          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 第十一話 ビルについて階段をかけ上がり、事務所のドアの前に立つ。中は見えない。物音や声もしない。 ノックをしたところで意味はなさそうなので、強くドアを押して開いた。 鍵はかかっておらず、中は、窓はあるが薄暗い。 「誰かいますか。」 美紗緒。美紗緒がいない。 後ろから急に両肩を触られ、 「hu!」みたいな変な声を出しながら息を飲み飛び退いた。 仙崎がいた。 「美紗緒はどこですか。」 「美紗緒?ああ。佐谷美紗緒さん。ここにはいない

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          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 第十話 「ねーちゃん。ねーーーちゃーーん。中野さんから電話。」 走っていって電話に出る。 「もしもし、すみませーん。」 「あ、こちらこそ、携帯にもおかけしたのですが、すみません。」 この前の顛末を中野さんに電話して相談してみたのだ。 警察の知り合いがいるってこういう時便利だよね、と弟に言うと 「いろいろ間違ってるけどそうだね。」と言われた。 「先日のお話なんですが、何も新しい話がなくて申し訳ありませんが、やはりこちらとしては、

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          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 第九話 食べないまま冷めてしまったチーズバーガーとフライドポテトを眺め、私はつぶやいた。 「え、ということは、、」 「うん。誰も為替やら株やら、私もよう知らんけど、そんな資料見てない感じやったもん。名簿と携帯と、なんかメモ書いたりしてたけど。」 「それって。」 「詐欺やんな。」 返す言葉がない。 「私と入れ違いの感じですぐ二人は帰ったけど、あそこ、詐欺の事務所だと思う。」 「で、その後、その仙崎さんに聞いたの?」 「詐欺やってるん

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          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 第八話 「それで?」 事務所のあった雑居ビルから出て、駅近くのマクドナルドの2階で美紗緒に切り出す。 涙もすっかり乾いた美紗緒はベーコンレタスバーガーをひと口かじって言った。 「ごめんな。」 何か言おうとしてうつむくと、また目に涙をためて、涙がひとつぶ、ハンバーガーに落ちた。 「はじめから順番に話すと、まず、塾でバイト始めたんは、知ってるよな。」 「うん。」 「フロムアップって新しいけど、けっこう評判も良くて、塾だから時給もいいし

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          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 第七話 美紗緒が膝をついて泣いている。 小さな事務所の中には、事務用スチールデスクが5つ、給食の班のように向かい合わせで並べられ、その上にはそれぞれパソコンや電話、書類などが雑然と置かれている。 窓の近くには、大きめのスチールデスクが、ふたつ並べておいてあり、 そのひとつに座った、背の高い神経質そうな男性に美紗緒は怒鳴られていた。 ドアを開けて入ってきた私に、男性は冷たい視線を向けながら言った。 「ノックもせずに入ってきて、どち

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          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 第六話 あきとの死体が見つかった。 えっと、、中野さんは なきがらって言ってたんだったかな、違う、わかった、ご遺体が発見されたと、そう言っていたんだ。 水死体で見つかったそうだ。 海で亡くなり、流されて、浜辺近くで浮いていたらしい。 水死体は顔などの判別は難しいらしく、ホテルの防犯カメラに映っていた服装などで判明し、DNA検査で確認されたそうだ。 あきとのご両親はフィリピンへ行き、すぐに火葬したそうだ。 遺体の損傷がはげしく、

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          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 第五話 あきとの遺書が見つかったセブ島のホテルによると、あきとは到着した次の日から既に姿を見かけられていなかったらしい。 ただ日本の警察に連絡がきたのは、姿が見えなくなって一週間ほど経ってからだ。 それには複数の原因があり、 高級なリゾートホテルで、到着してすぐ、お客にクレジットカードを提示してもらってカード番号を控えるシステムらしく、支払いの心配がなかった事。 荷物である大きなリュックが置きっぱななしであった事。 部屋の清掃係

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          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 第四話 「みなさん御迷惑をおかけしてすみません。 僕は生きている資格がないと思うので、旅立つことにしました。 友達には 今までどうもありがとうと伝えてほしい。                         佐藤秋斗」 セブ島で見つかった遺書にはこう書いてあった。 夜に中野さんからまた電話があり、遺書の内容を教えてくれたのだ。 警察とマスコミの間では毎日マスコミ発表が行われるらしく、午後のマスコミ発表で、世間の他のいくつか