神様

#創作大賞2024
#ミステリー小説部門

第七話

美紗緒が膝をついて泣いている。
小さな事務所の中には、事務用スチールデスクが5つ、給食の班のように向かい合わせで並べられ、その上にはそれぞれパソコンや電話、書類などが雑然と置かれている。
窓の近くには、大きめのスチールデスクが、ふたつ並べておいてあり、
そのひとつに座った、背の高い神経質そうな男性に美紗緒は怒鳴られていた。

ドアを開けて入ってきた私に、男性は冷たい視線を向けながら言った。
「ノックもせずに入ってきて、どちら様ですか。」
「あ、ノックはしたんですけど聞こえなかったみたいで、、」そりゃそうでしょ、怒鳴り声してたから。
「で?」

「香里!ごめんね電話してしまって。あの、」と美紗緒は男性の方に顔を向けた。
「この子が、さっき伝えた友人です。本当なんです、あの、本当に」
「そうですか。」
「香里、あきとのこと伝えて。」
「あきと?何であきとの名前が出てくるの?ごめんこの人誰なの、フロムアップって塾の名前だよね。」
「話せば長くなるから。フロムアップっていうのは、塾の名前やけど、その塾を経営している会社の名前で、えっと、とにかく、あきとの事を。」
「塾って、ここ教室もホワイトボードも何もないじゃない。」

「ここは事務所なんですよ。」男が冷たい顔で微笑む。
「割と大きな会社なんで、塾の他にも販売業なんかもありますし。」
「事務所、、」
「ところでどうなんですか。お友達は、あきとさんをご存知なんですか。」
「えっと、、」どうしよう。どう答えたらいいんだろう。半グレのことや自殺のことが頭にうかんで、危険信号が光っている。でもここで知らないと言っても事態が好転する気がしない。
「はい。友達です。大学の。」
「そうですか。友達。 親友だと聞きましたが。」
「そうですね。親友と言っていいと思います。」

男性は何かを考えている様子でしばらく黙り、そして美紗緒に向かって言った。
「いいでしょう。ではお友達に免じて今日のところは帰ってもらってかまいません。夜遅くなってお腹もすいたでしょう。」
「え、香里になんか話あるんと違うんですか。」
「あります。お友達は残っていただけますか、香里さん、ですね。」
こわ!ひとり残るとかあり得ない。
どうしたら。
「あの、私も、今日のところは帰っていいですか。」うーん何も思いつかない。「母に何も言わず来ちゃって、母が心配症なんですぐ警察とか、すぐ行っちゃいそうなんで。」なんだこれ。

「まあいいでしょう。ではおしゃべりは次回ということで。」

次回って。


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