神様

#創作大賞2024
#ミステリー小説部門

第十五話


次の日、美紗緒は大学に来た。
何と声をかけたらいいのかと思いながらも「おはよう」と言うと、
「あっ香里おはよう。」
よかった。私を心配させない演技にしても元気そうだ。
「疲れてない?体も大丈夫?」
「え、何?」
キョトンとした顔をする美紗緒。
しまった。変なこと聞いちゃったか。
「それよか聞いてっ香里ありがとう。契約書返ってきてん。」
「え?何?」今度は私がキョトンとする番だった。今ふうに言うなら私のターンだ。
「契約書って、、仙崎の自宅では、返してもらえなかったんだよね?」
「仙崎の自宅?何それ。」
何だろう。嘘をついている感じではなさそうだ。
「いや昨日、塾でマネージャーがこっそり返してくれてん。なんか大きな声では言われへんねんけど、きのうマネージャーの机の引き出しになぜか突然、私の契約書が入ってたらしいねん。でマネージャーが言うには、多分誰かが私を助けてくれようとして、会社のどこかから、くすねてきてくれたのでは。って。
でマネージャーも助けたいのはやまやまだったんだって。マネージャーは仙崎さんが助けてくれたんじゃないかって言ってるけど、どうかなあ仙崎さんは違うよね。」
「えっと、うん、仙崎さんは違うよね。」
「どうしたん香里、もっとびっくりすると思ったけど。」
「え、うん、びっくりしすぎて声も出ないっていうか。」
「あはは。声は出てるけどな。」
「あ、でも、事務所では、契約書がなくなったら騒ぎになるんじゃないの。」
「そうだねえ、どうやろ、意外と、いい加減な気もするし。私にばかり、かまってはいられないというか。とりあえず違法とも言える契約書は私が持ってるし、弁護士事務所に行くにしても、警察に行くにしても、なんかもう大丈夫って感じやん。もうお金請求してきたりも、してこないんちゃうかな。コピーももう何枚もとったった。」
「そっか。よかった。吉井さんも喜んでくれそう。」
「吉井さん?」
「うん、きのう会ったでしょ。」
「ん?えっとそれは、塾の、人?生徒の親とかやったかな。」
なにかおかしい。
「えっときのう仙崎の家で、、」
「香里、仙崎の家に行ったん?何で?危ないやん。」
これは、なんだ。
「えっとそっか、あれ?夢か。美紗緒のこと心配しすぎて夢みたのと現実がなんかごっちゃになってるんだ。」
「もぉー香里ってばー。起きて〜。」
「お、おはよー。」
「まあ香里には、前に事務所で仙崎と一回会わせちゃったり迷惑かけてほんとごめんやで。心配してくれてありがとうな。」
「あ、ううん、よかった本当、契約書ね。」
「じゃ私ちょっと購買寄っていくからまた後でね。」
美紗緒に手を振り、頭をフル回転させる。
夢じゃないのに、美紗緒は覚えてない。昨日の夜のことは、夢だったんだろうか。契約書は何でそのマネージャーの机の引き出しに入っていたのか。
美紗緒が夢を見たのか、でも契約書、、あれ、混乱してきた。
美紗緒か私のどちらかの記憶がおかしい?

振り返ると、吉井さんが立っていた。

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