神様

#創作大賞2024
#ミステリー小説部門


第五話

あきとの遺書が見つかったセブ島のホテルによると、あきとは到着した次の日から既に姿を見かけられていなかったらしい。
ただ日本の警察に連絡がきたのは、姿が見えなくなって一週間ほど経ってからだ。

それには複数の原因があり、
高級なリゾートホテルで、到着してすぐ、お客にクレジットカードを提示してもらってカード番号を控えるシステムらしく、支払いの心配がなかった事。
荷物である大きなリュックが置きっぱななしであった事。
部屋の清掃係のスタッフ達が、便箋に書いてある日本語を読めなかった事。
これらが主に、警察に届けるのが遅れた原因のようだ。

姿が見えなくなって3日目、ホテルの措置で、荷物のリュックだけ保管し部屋をチェックアウトさせた形にした際、便箋はメモ書きと思われ、捨てられるところだったそうだ。
清掃スタッフのひとりが、捨てる前に、確認のために日本語のできるスタッフに見せたところ、遺書だと分かり、すんでのところで捨てられるのを回避できたらしい。
日本語ができるスタッフが休みだったら確実に捨てられてしまっていただろう。

それでも、客による、ただのいたずらのメモの可能性も考えたホテル側は、もう1日置いておき、それからマネージャー判断として現地警察に届け出て、現地警察から日本の警察へ連絡が入った時には既に一週間経っていたというわけだ。

遺体があったわけではないので、書類上の手続きがなされ、日本からの捜査願いを現地警察に提出済みとのことだった。

「ねーちゃんさー。」弟が言う。
「セブ島ってさ。」
「何よ。」
「えっと。やっぱいーわ。なんでもない。」
「何、言って。」
「いや、セブ島って、なんか心当たりとかあるのかなと思って。」
「なに心当たりって。」
「いや、例えば、ふたりで行きたいねっとか話してたのかなって。」
「話してないし。っていうか何そのカップルみたいな話し方。」
「えっ えっ 何それ?カップルじゃなかったっていう事?」
「言ってなかった?いや中野さんに、友達だって話してる時も、あなたいたよね?」
「それいつのやつか分かんないけど、中野さんには恥ずかしいからそういう事にしてるのかと思ってた。って ちょっと ショックというか そうなんだ、ちょっ、えー。」
弟のあまりのショックの受けように、なんだか笑ってしまった。
「なんかごめんね。 でも、まあ仲は良かったし。カップルといえばカップルかも。」
「なに、意味深な、意味深なカップルじゃん?」
「。。。やっぱカップルじゃない。」

こうやって弟と笑ってると、まだあきとが生きていた時みたいだ。
いや、ほんとに生きてるのかもしれない。

手紙の文面は、あきとだけれど。
死んだと決まったわけじゃない。


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