神様

#創作大賞2024
#ミステリー小説部門


第四話


「みなさん御迷惑をおかけしてすみません。

僕は生きている資格がないと思うので、旅立つことにしました。

友達には 今までどうもありがとうと伝えてほしい。

                        佐藤秋斗」

セブ島で見つかった遺書にはこう書いてあった。
夜に中野さんからまた電話があり、遺書の内容を教えてくれたのだ。
警察とマスコミの間では毎日マスコミ発表が行われるらしく、午後のマスコミ発表で、世間の他のいくつかの事件とともに、あきとの遺書についても発表された。
ただ遺書の内容については、事件解決まで伏せられるのが通例のようで、
両親や、ごく親しい人にだけ伝えられたようだ。
今回は事件性が見えてこず、遺書が見つかったことからも自殺の可能性が高いため、ということだった。そしてもし事件だったとしても、犯人しか知りえない情報というのはない、という判断だそうだ。

友達には 今までどうもありがとうと伝えてほしい。

これって私のことだろうか。
私に伝えるためにこの一文を書いたんだろうか。
それとも友達みんなに伝えたかったんだろうか。
あきとらしい文で泣けてくる。
何度読んでも普通の、ありふれたぐらい普通の文だ。
でも私には、これはあきとが書いたんだとわかる。
言葉には性格とか宿るんだろうか。何か一文字変わるだけでも、その人の思いは違う形で伝わってしまう。

中野さんに電話口で遺書の内容を聞いたあと、待ってもらって紙とボールペンを持ってきて、もう一度ゆっくり言ってもらって、書き取り、そのあと復唱して確認してもらった。
あきとの字を見て確認したかったけど、それは出来ないそうだ。
「もしかして携帯のメールとか、パソコンとかに打ってあったんでしょうか。」
中野さんに私が聞くと、
「いえ、ホテルの部屋に置いてある便箋に、手書きでした。」
「筆跡鑑定とかされたんでしょうか。」
「今鑑定に出してますが、まず本人に間違いないとは思います。」
「鑑定ってそんなに時間がかかるんですか。」
「いえ鑑定自体は一瞬で済むんですが、手続きに時間がかかるのと、あと事件性の低い案件はどうしても後回しにされてしまうんです。」
「そうですか。鑑定するものって色々あるんですね。」私は今何を話しているのだったか。私は何を言っているんだろう。遺書ということは、遺書ということは。
あきとは、死んだのだ。


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