神様

#創作大賞2024
#ミステリー小説部門

第八話


「それで?」
事務所のあった雑居ビルから出て、駅近くのマクドナルドの2階で美紗緒に切り出す。
涙もすっかり乾いた美紗緒はベーコンレタスバーガーをひと口かじって言った。
「ごめんな。」
何か言おうとしてうつむくと、また目に涙をためて、涙がひとつぶ、ハンバーガーに落ちた。
「はじめから順番に話すと、まず、塾でバイト始めたんは、知ってるよな。」
「うん。」
「フロムアップって新しいけど、けっこう評判も良くて、塾だから時給もいいし、面接の時からスタッフっていうの?事務員のお姉さんも先生達もやさしいし、いいとこにバイトできて良かったなって思って。慣れてきて、今考えると、ちょっと私調子乗ってたというか、たるんでたと思うねん。あの、こんなこと言って、引かんといてな。 生徒の個人情報を、間違って他の生徒に送信してしまってん。」
「え?」
私は拍子抜けした。
「そんだけ?」
「それで事務所に呼び出されて怒られてたっていうこと?いやそりゃ誤送信は、やばいけど、別に引かないって。誰でもあり得るミスじゃん。」
「あ、引かないでくれてありがとう。でも違うねん。」
美紗緒が私をじっと見た。怯えが伝わってきて、少し濡れた目を見続けた。

美紗緒はアイスティーを飲んで、アイスティーの紙カップをトレーに置いた。
「誤送信で情報流出された親は、内容が成績のことやってんけど、すごく怒ってはって、私も家まで主任と謝りに行って、それは当たり前のことやから、、」
「うん。」
「でね、その子は塾を辞めてしまって、でも塾を辞めても辞めてなくても、私、
80万円。払わないとあかんねん。」
「え?80万円て、なんで?」
「塾の規定で。」
「塾の規定って?」
「規定は規定やん。」
「いやおかしいでしょ。無いってそんな規定。」
「規定っていうか、、契約書にサインして、判子も押して。で契約書をもう一度読ませてもらってんけど、確かに書いてるねん。」
「え、見せて。」
「何?」
「契約書持ってる?見せて。家?」
「いや契約書は塾の事務所にあるよ。」
「控えあるでしょ。」
「控えなんてもらってないと思うけど。」
「え? 何それもう。で、えっと事務所ってさっきの?」
「いやさっきのとこは、フロムアップの事務所なんやけど、塾の事務所じゃなくて、会社の事務所っていうか、、」
「ていうか?」
「なんか、私、今日塾の後、あのビルの事務所に行くように言われて行ったんやけど、その時、仙崎さんって、あ、あのさっき居た人な。あの仙崎さんて会社の偉い人っぽいねんけど、仙崎専務とか、前塾に来た時言われてるの見たような、で、その仙崎さんの他にあと二人若い感じの、私達と同じくらいか、もっと若い感じ?の人達がいて、電話してたの。投資の話をしてるみたいやってんけど。」
「うん。え?投資?」
「うん。」
「あそこ投資、えっと証券会社ってこと?なんかそんな感じじゃなかったような。」
「そうやろ。うん。そうやねん。」
美紗緒は真剣な眼差しで言った。
「なんか、やばいなって。」

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