神様

#創作大賞2024
#ミステリー小説部門


第十二話


逃げられない。
絶望と必死さの中。

ガチャっとドアが開いた。

仲間がやってきたんだ、どこかに連れて行かれる、瞬間そう思ったけれど、
その人は言った。
「何をやってる!」
声のほうを仰ぎ見た。
なにか、見たことがあるような、あ、
「吉井さん!」
仙崎は不審そうな顔をしている。
「誰?吉井?」
「吉井さんは警察のかたです!」私は答えた。
「警察?適当に言ってんじゃないの。」
吉井さんは警察手帳をさっと見せて胸ポケットのあたりにしまった。
仙崎は
「これは同意の上なんでね。」と言いドアから出て行こうとする。
「署まで、、」と吉井さんが言いかけると、仙崎は走って逃げる。
私を置いて、追いかけるわけにもいかなかったのか、吉井さんは私を起こして、スチールデスクの引き出しをいくつか適当にあけ、ハサミをみつけると、私の手首の拘束を切って解いた。

「え、吉井さん、なんで、、私場所言ってましたか。あ、あの、ありがとうございます。」
「ええ、はい。」
そうだ、吉井さんて無口だったよな。
「大丈夫ですか、あ、いえ、大丈夫ではないですね、怪我などないですか。病院へ行かれますか。」
そうだ!美紗緒!
「吉井さん。友達が捕まってるかもしれない。友達を助けたいんです。」
「佐谷美紗緒さんですね。」
「どうして名前、あ、中野さんに聞いたんですね。」
「ええ、はい。」
「どうしようどうしよう。どこにいるんだろう。携帯にもう一度、、」
「佐谷美紗緒さんは仙崎の家です。出られない状態なのでこちらで助けに向かいます。」
「えっ わたしも行きます!」
「いえ後は警察に任せていただいて。」
「あの!行かせて下さい。あの、あの美紗緒、私の携帯にかけてくるかもしれないし、私がいた方が、お役に立てますから。」
「いえ」
「お願いします。」
「、、、。」
「お願い、します。」
「ではご無理のない範囲で。」
「ありがとうございます!」

雑居ビルを出て、コインパーキングに駐車しているという車に急ぐ。
走りながら、
「パトカーってコインパーキングに停めるんですか。」
「パトカーでは来てないんです。」
「あっ 覆面パトっていうやつですね。」
「覆面パトカーでもないです。軽乗用車です。」
「そ?そうなんですね。」
コインパーキングに着き、代金を清算し、車に乗り込む。
天井高めの普通の軽乗用車だ。
シートベルトをして、車内に吉井さんとふたりだと思うと、何だか、途端に吉井さんがあやしい人に思えてきた。
え?おかしくない?警察の車よく知らないけどパトカー以外の軽乗用車とかある?
あとドラマでは警察って二人一組で動くものじゃない?一人っておかしくないか。しかも、その状態で一般人乗せていいのか、あっそれは私がお願いしたけど。お願いされても断らないと。って断られていいの?いやダメじゃん。断られないでよかった。
あっ 仙崎の仲間、、そうだ!
どうしようどうしよう。
仙崎の仲間だ。

「違いますよ。」吉井さんは言った。

「私、神様なんです。」

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