神様

#創作大賞2024
#ミステリー小説部門

第十一話


ビルについて階段をかけ上がり、事務所のドアの前に立つ。中は見えない。物音や声もしない。
ノックをしたところで意味はなさそうなので、強くドアを押して開いた。
鍵はかかっておらず、中は、窓はあるが薄暗い。
「誰かいますか。」
美紗緒。美紗緒がいない。

後ろから急に両肩を触られ、
「hu!」みたいな変な声を出しながら息を飲み飛び退いた。
仙崎がいた。

「美紗緒はどこですか。」
「美紗緒?ああ。佐谷美紗緒さん。ここにはいないですよ。塾で授業中なのでは?お探しなのですか。」
仙崎はドアを閉める。
「ここにいますよね。」
仙崎は首をかしげる。

「いいです。電話してみますから。」
電話をかける。出ない。
「佐谷さん、ほら、授業中だから。電話は出ないんじゃないかな。」
仙崎は
「ほらほら心配しないで。」と近づいてきたかと思うと私の両手首をつかみながら抱きついてきた。いや、抱きつかれたわけではない。私の両手首は後ろ手にされ何かで縛られている。
両肩をつかまれ、床に座るよう押される。
「どういう目にあいたい?」
「どういうことですか。」
「まあ素直にしゃべってくれたら、すぐ帰れるよ。」
「何ですか。」
「わからない?知らないふり上手いなあ。佐藤秋斗のことだよ。」
「あきとのこと?」
「うんうん。秋斗くん。」
「あきとの何を話せばいいの?」
「またまた。聞いてるでしょ、秋斗くんから。」
「だから何をですか。好きな食べ物とか?」
「面白いなあ。でもあんまりかわい子ぶってると痛い目みるよ。」
仙崎はしゃがみ、私の喉の下あたりに手の平をおき、ゆっくり押した。
私は仰向けになって、暗い天井の蛍光灯を見た。
「今自分がどういう立場か分かってるよね?」
仙崎の声は冷たい。
「君も手荒なことはされたくないだろう。もう一度聞くね。佐藤秋斗から聞いてるよね?それか君が持ってるのかなあ。」
「何も、、」
「何も聞いてないし、何も持ってません。」
仙崎はため息をついて微笑んだ。
「仕方ないなあ。」
ポケットから白い飴のようなものを取り出し、私の口に当てた。
「じゃあまずこれ飲み込んで。」
私は首を振る。
「これ飲んだら気持ち良くなるから。」
私は死に物ぐるいで仙崎に頭をぶつけるように身をよじり、仙崎は私を軽々、強い力でつかんできた。


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