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書評:佐藤優『生き抜くためのドストエフスキー入門 「五大長編」集中講義』

書評:佐藤優『生き抜くためのドストエフスキー入門 「五大長編」集中講義』

類い稀なるパーソナリティが読むドストエフスキー今回ご紹介するのは、佐藤優『生き抜くためのドストエフスキー入門』という最近の著作。

佐藤氏はもはや説明不要な有名文筆家であるが、彼がドストエフスキーを語ることの魅力についていくつか紹介したいと思う。

著者自身は本著の中で、ドストエフスキー読みとして自身が特有の視座を有する理由を3点挙げている。

①キリスト教信仰および神学のバックグラウンド
②外交

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書評:鈴木道彦『マルセル・プルーストの誕生』

書評:鈴木道彦『マルセル・プルーストの誕生』

プルースト文学に見られる徹底した自己表現と自分史の普遍化今回ご紹介するのは、鈴木道彦『マルセル・プルーストの誕生』という著作。

本著が発刊されたのは2013年のことで、その年はマルセル・プルーストの『失われた時を求めて』の刊行からちょうど100年というメモリアル・イヤーであった。

この佳節に、日本を代表するプルースト研究者であり、『失われた時を求めて』の全訳も完遂した経歴を持つ鈴木道彦先生の文

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書評:ミハイル・バフチン『ドストエフスキーの詩学』

書評:ミハイル・バフチン『ドストエフスキーの詩学』

バフチンがドストエフスキーに見た「ポリフォニー」と「カーニヴァル」とは?詩というのは、少ないながらも読むことはあるのだが、書くとなると私にとって途端に敷居が高くなり、どうやったら書けるかのかが正直全然わからない。

私の書く文章はもっぱら説明的で、詩、それから小説やコピーライトも含め、アーティスティックに日本語を使える方は本当に凄いなと尊敬する。憧れもしたこともあったが、自分なりの感覚で綴っても良

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書評:埴谷雄高『ドストエフスキイ その生涯と作品』

書評:埴谷雄高『ドストエフスキイ その生涯と作品』

稀代の形而上文学作家が見たドストエフスキーとは?
今回ご紹介するのは、埴谷雄高『ドストエフスキー その生涯と作品』という著作である。

埴谷雄高は日本を代表する形而上文学『死霊』の作者であり、ドストエフスキーに多大なる影響を受け、その作品にも影響が色濃く反映されていることで知られている。

本著はその名の通り、ドストエフスキーの生涯と主要な作品について説明・解説されたものだ。

何よりもまず、埴谷

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書評:亀山郁夫『「悪霊」神になりたかった男』

書評:亀山郁夫『「悪霊」神になりたかった男』

ドストエフスキー『悪霊』の世界において「神になりたかった男」の実像とは?今回ご紹介するのは、ドストエフスキーの文芸評論、ロシア文学研究者の亀山郁夫先生による『悪霊 神になりたかった男』という著作だ。

本著は『悪霊』の「スタヴローギンの告白」という章について、亀山先生が自身の見解を講義形式で綴ったものである。

本著を読んで、私にとって刺激的だったのは、私の感想と亀山先生の解釈が全く異なったことで

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書評:鹿島徹『埴谷雄高と存在論-自同律の不快・虚体・存在の革命-』

書評:鹿島徹『埴谷雄高と存在論-自同律の不快・虚体・存在の革命-』

埴谷雄高を存在論の見地から読み解く文芸評論
今回ご紹介するのは、鹿島徹『埴谷雄高と存在論-自同律の不快・虚体・存在の革命-』という文芸評論。

『死霊』という文学の斬新性と想像力を高く評価する鹿島であるが、「存在論」という見地から埴谷を見たときに問題視せざるを得ない点が確認されるという指摘を展開する。

まず、『死霊』の出自、執筆開始当初のモチーフを、アフォリズム集『不合理ゆえに吾信ず』から読み解

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書評:亀山郁夫『「悪霊」神になりたかった男』

書評:亀山郁夫『「悪霊」神になりたかった男』

ドストエフスキー『悪霊』の世界における「神になりたかった男」の実像とは?
今回ご紹介するのは、ロシア文学研究者の亀山郁夫先生による『悪霊 神になりたかった男』というドストエフスキーの文芸評論。

本著は『悪霊』の「スタヴローギンの告白」という章について、亀山先生が自身の見解を講義形式で綴ったものである。

本著を読んで、私にとって刺激的だったのは、私の感想と亀山先生の解釈が全く異なったことであった

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書評:亀山郁夫『「カラマーゾフの兄弟」の続編を空想する』

書評:亀山郁夫『「カラマーゾフの兄弟」の続編を空想する』

第一級のドストエフスキー研究者が空想する『カラマーゾフ』の続編とは?今回ご紹介するのは、亀山郁夫『「カラマーゾフの兄弟」の続編を空想する』という著作。

十数年前、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の新訳を30年ぶりに世に放ち、異例の13万部の売り上げを叩き出しブームを巻き起こした亀山郁夫先生による著作である。

以前の投稿で、『「悪霊」神になりたかった男』という氏の著作を紹介たが、私のなか

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書評:山城むつみ『ドストエフスキー』

書評:山城むつみ『ドストエフスキー』

「ラズノグラーシエ」というドストエフスキー文学の本質とは?今回ご紹介するのは、山城むつみ『ドストエフスキー』という著作。

著者は本著で、ドストエフスキー文学の本質を「ラズノグラーシエ」という概念で特徴付けている。

ドストエフスキー作品の地下室的人物達は、他者に対し一見闇雲に不同意を突き付ける。しかし彼らは実は他者の言葉に強く引かれており、同意したい欲求を持っていると著者は捉える。

にも関わら

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書評:清水正『ウラ読みドストエフスキー』

想像力たっぷりに読み解くドストエフスキー論
タイトルも表紙の絵もやや遊び心の漂った著作であったため、ホンの余興がてらに読んでみた著作であった。

これがなんと、実に面白かった!かなり奇抜なドストエフスキーの作品解釈を展開している。私の見る限り、これまでのドストエフスキー論に対する「揺さぶり」であると見ていいかもしれない。

『罪と罰』のソーニャの最初の相手について、『悪霊』のステパン氏と作中作者ア

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