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小説 「それなりの愛に酔っている」①
11月21日 都内マンション
「この遺書が懺悔になるのなら、すべてをここで告白したい。人生に翳りがあるのなら、それはきっと桐川こころと出会ってしまったことだ。そうじゃなければ、私の生に意味はなかったのだ」
風変わりな遺書だな。最初に抱いた感想はそれだった。アイドルが書いたにしては、なかなか期待を煽る文章だったからだ。荒れた部屋、昏睡状態のアイドル、それに開かれたままのファイルとくれば、なかな
ラット -嚆矢- 3
「では『仙港市学生死体遺棄事件』の会議を始める。起立!」
遠坂の号令で一律に席を立つ。そのまま礼をし席に座る。
会議室にいる面々はそう変わらない。一課の人間、さらに捜査員数名で構成されている。
栄は一つの写真を取り出し指さした。写真は男のバストアップになっていて、パッとしない学生という言葉が似合う男だった。
「まず、彼は名取 勇。本日11時20分に市内の交番に自首をした。市内の廃工
[連載]ラット -嚆矢-2
京崎翔太郎は黒のロードバイクのハンドルを握りしめ、力強くペダルを踏んでいた。頬を撫でる春先の風が妙に心地よい。陽光がまぶしい、良い朝だと心の中で呟く。
高速の高架下を程よく進むと、ビル群の中に白い建物を発見し京崎はブレーキをかける。裏の駐輪所に自転車を止め、そのまま裏口から仕事場へと向かう。
仙港市警察署。それが京崎の仕事場であった。
京崎はある部屋の前で立ち止まる。捜査一課、凶悪犯罪や殺人
[連載]ラット -嚆矢- 1
男は走っていた。
夜の港は思っていたよりも街灯が少なく、夜目が効かないとどこを走っているのかすらわからない。ただ無茶苦茶な姿勢でがむしゃらに走っているのである。だが男は必死に叫んだ。全速力で走りながら叫んだのだ。
「誰か!誰か、助けてくれ!」
無論、反響するのは自身の声だけである。
どうして、どうして……反芻するだけ無駄なのはわかっている。
なぜなら彼自身、どうして追われているのか、分かって
本気の恋をしたことはあるか?
主人公、玲南はイベント企画会社に勤めていた。
ある日、会社に桜木司が入社し玲南と共に仕事をすることとなる。
その日、LINEを司とLINEを交換したあと、高校時代からの親友優茉と会う。
1ヶ月間連絡が取れなかった彼女は、ストーカー行為で拘置所にいた事を告白する。
優等生だった彼女のことを嫌いにはならないが、ショックを受ける。
その次の日、玲南と共に仕事をこなすが、前職でもやり手であったため、スムー