針元ねる “一年に300本映画を見る男”

一年に映画を300本見る男 話題の映画や名作、あの人気作の映画の感想を綴っています!!…

針元ねる “一年に300本映画を見る男”

一年に映画を300本見る男 話題の映画や名作、あの人気作の映画の感想を綴っています!! たまに自作の小説も投稿します

最近の記事

ラット -番- ①

  午前5時54分にセットしていたアラームを止めると、トレーニング用のウェアを羽織る。20分かけて全身のストレッチを入念に行い、そこから20分間有酸素を取り入れたトレーニング。軽い朝食とコーヒーを嗜み、洗面台へと向かう。蛇口をひねり冷たい水を煽ることで、ようやく眠気を吹き飛ばしてくれる。  そこで初めて朝一番の顔を拝む。目の奥が濁った人殺しの目だった。今まで街に巣くっている悪を排してきた。汚れた手だ。耐え難い汚濁を無理やりねじ込まれるような不快感。汚物を胃の中に住まわせて

    • 小説 「それなりの愛に酔っている」①

      11月21日 都内マンション 「この遺書が懺悔になるのなら、すべてをここで告白したい。人生に翳りがあるのなら、それはきっと桐川こころと出会ってしまったことだ。そうじゃなければ、私の生に意味はなかったのだ」  風変わりな遺書だな。最初に抱いた感想はそれだった。アイドルが書いたにしては、なかなか期待を煽る文章だったからだ。荒れた部屋、昏睡状態のアイドル、それに開かれたままのファイルとくれば、なかなかいい導入だと思う。  「何かわかったか?」  私を現実に引き戻したのは、ドスの

      • ラット  -嚆矢- 3

        「では『仙港市学生死体遺棄事件』の会議を始める。起立!」  遠坂の号令で一律に席を立つ。そのまま礼をし席に座る。  会議室にいる面々はそう変わらない。一課の人間、さらに捜査員数名で構成されている。  栄は一つの写真を取り出し指さした。写真は男のバストアップになっていて、パッとしない学生という言葉が似合う男だった。  「まず、彼は名取 勇。本日11時20分に市内の交番に自首をした。市内の廃工場近くに遺体を埋めさせられた、と話をしている」  するともう一枚、写真を取り出

        • 小話 「おもい」

          語り「彼らはもう、引き返すことはできない。人生を捧げた。【野球】しかなくなってしまった」 山田 校庭にてユニフォームを着てバッタースペースに入る    手に持ったバットを強く握る 山田 (今年がラストチャンスなんだ……。リトル、軟式と努力して遂に強豪の天王塚高校に来たんだ。しかも推薦で!今年こそは、マウンドに__) 放たれたボールがバットの芯にあたり、大きな放物線を描いていく それはグラウンドの奥のフェンスに直撃する スミダ 「山田フェンス直ー、ナイスバッティン」 全

          [連載]ラット -嚆矢-2

          京崎翔太郎は黒のロードバイクのハンドルを握りしめ、力強くペダルを踏んでいた。頬を撫でる春先の風が妙に心地よい。陽光がまぶしい、良い朝だと心の中で呟く。 高速の高架下を程よく進むと、ビル群の中に白い建物を発見し京崎はブレーキをかける。裏の駐輪所に自転車を止め、そのまま裏口から仕事場へと向かう。  仙港市警察署。それが京崎の仕事場であった。  京崎はある部屋の前で立ち止まる。捜査一課、凶悪犯罪や殺人事件を取り扱い、街の平和と秩序を守る。  しかし、仙港市は少し事情が違う。 「お

          [連載]ラット -嚆矢- 1

          男は走っていた。 夜の港は思っていたよりも街灯が少なく、夜目が効かないとどこを走っているのかすらわからない。ただ無茶苦茶な姿勢でがむしゃらに走っているのである。だが男は必死に叫んだ。全速力で走りながら叫んだのだ。 「誰か!誰か、助けてくれ!」 無論、反響するのは自身の声だけである。 どうして、どうして……反芻するだけ無駄なのはわかっている。 なぜなら彼自身、どうして追われているのか、分かっていないからだ。 ああ、くそ。 心の中で舌打ちする。走りにくいサンダルが、彼の

          狂っている位がちょうどいい

          「あの女誰」 先に端を発したのは私の方だった。 狭いアパートの小さな机。その対角線上に、私の彼氏は小さく縮こまっていた。小刻みに震えるところが可愛いとも思っていたが、今はそれがただただ不快でしかない。 私は部屋を見渡した。 私の部屋。私が契約した、家賃も払っている部屋。女の子らしい部屋にしたいと、ガーベラ色のカーペットや雑貨や柑橘系のディフューザーとか、色々買い揃えたものだ。 それがどうだ? 惨状を見る限り、この部屋でコトが起こったのは間違いないだろう。整理された本棚は崩れ、

          🐀後日談

          仙港市警察署2番窓口に座っている私、村瀬由美はストレス値が右肩上がりにある。 そのわけは… 「なあ、お願いだ!早く探してくれよ!」 「おい、聞いてんのか」 荒い語気で2番窓口を騒がしているのは大学生らしい若者たちだった。 ストリート系のガタイの良い若者たちは、それぞれカジュアルな格好で、髪を染め上げているものが多数だ。リーダーらしき人物に至っては、大声で私に向かって吠えていた。 「何日経ってんだよ!仲間探して欲しいって毎日来てんのに、全然見つかんねぇじゃねえかよ!」 捜索願