🐀後日談

仙港市警察署2番窓口に座っている私、村瀬由美はストレス値が右肩上がりにある。
そのわけは…

「なあ、お願いだ!早く探してくれよ!」
「おい、聞いてんのか」
荒い語気で2番窓口を騒がしているのは大学生らしい若者たちだった。
ストリート系のガタイの良い若者たちは、それぞれカジュアルな格好で、髪を染め上げているものが多数だ。リーダーらしき人物に至っては、大声で私に向かって吠えていた。
「何日経ってんだよ!仲間探して欲しいって毎日来てんのに、全然見つかんねぇじゃねえかよ!」
捜索願を出した仲間のことについて連日私の元へ足を運んでいる彼らは、私の仕事に対するやりがいと体力を蝕む病原菌のようだった。
「ですから何度もお伝えしてますように、ただいま捜索中です。進展があり次第ご連絡致します」
マニュアル通りの対応をするが、これが聞いた試しが1度もない。
「ふざけんなよ!」「何回目だよこのやり取り」
「遅すぎんだろ!」「それでも警察か!?」
などなど私に野次を飛ばす。
私は握ったペンをへし折りたい気持ちを抑えた。
毎日こうだ。
大体捜索願が出されたといって、すぐに見つかる保証はない。過去の資料から該当者を探したりなど、膨大なビックデータを閲覧する必要がある。
さらに、仙港市は犯罪係数は低いものの、代わりに行方不明者の数は近隣の街より群を抜いて多い。数百の中から1人を見つけ出すなんて、至難の業だ。
それなのにこいつらは1週間もの間飽きもせず、同じ時間にやってきてはギャーギャー騒ぐ。長い時は1時間以上も!
もうやってられない、と放り投げようとしたその時だ。
「なにかありましたか?」
背後から声がかかる。男声の落ち着いた声だ。
振り向くが、その顔は和やかな笑顔だった。警官に似合わない柔和な表情だ。
「なんだてめぇは?」
チンピラの1人が尋ねるが、男は表情を崩さず丁寧に応じた。
「捜査一課の氷野と言います。先程からなにか困っているようでしたので。どうかされましたか?」
氷野という名前に、私はピンと来るものがあった。捜査一課の中でもとりわけ検挙率が高い刑事だ。美顔だと噂だったが、本当だったとは…。
「この中で代表者の方はいらっしゃいますか?」
「俺だ。」
椅子にどっかり座っている男(確か高橋と名乗っていたか)が名乗った。
氷野はそんな態度にも眉ひとつ動かさない。
「毎日来て頂いて大変申し訳ないのですが、只今全力で操作をしております。微力ながら私もご協力しますので本日はお引取りを」
丁寧な対応が効いたのか、はたまた飽きたのか高橋は仲間を引き連れて帰って行った。
私は礼を言った。だが彼は首を横に振った。
「一課は暇ですので。街のために働くのは本望です」
さながら貴公子を思わせるセリフに、私は心の底から感服した。
「そうそう。一応、その行方不明の名前をお聞きしたいのですが」
「わかりました」
私は書類の名前を読み上げた。
「木内俊哉です。仙港市在住の大学生です」
筋肉質な雰囲気が人相からも読み取れる。実際、特徴として高身長で武道をしているらしい。
氷野はメモをし、私に感謝を言って窓口を後にした。
弱きを助け、街のために働く。私もそんな警官になれるだろうか…。
「よし…。頑張ろ」
固く小さな決意を胸に秘めて。






窓口から離れ、再度手帳を開く。
自身で書いた『木内』の文字を指でなぞる。
あの事件、名取を逮捕してから20日経過している。つまり、周囲の人間は、木内の存在が無くなったことに12日で気づいたということだ。
私が、彼の頭を撃ち抜いてから20日か。
「以外に早かったですね。」
良かったですね。君を探してくれる人がいて。
メモしたページを手帳から破り、そのまま丸めてゴミ箱に捨てる。
ゴミを排除し、この街を綺麗にするため、今日も往く。

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