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ラット  -嚆矢- 3

「では『仙港市学生死体遺棄事件』の会議を始める。起立!」


 遠坂の号令で一律に席を立つ。そのまま礼をし席に座る。

 会議室にいる面々はそう変わらない。一課の人間、さらに捜査員数名で構成されている。

 栄は一つの写真を取り出し指さした。写真は男のバストアップになっていて、パッとしない学生という言葉が似合う男だった。

 「まず、彼は名取 勇。本日11時20分に市内の交番に自首をした。市内の廃工場近くに遺体を埋めさせられた、と話をしている」

 するともう一枚、写真を取り出す。今度はがっちりしたスポーツマンというような感じだ。

「被害者は本田 誠人。市内在住の大学生で、死因はナイフなどによる失血死。場所は仙港市市内にある廃工場だ。遺体は約2メートルほどの地面に黒のビニール袋に入れられていた。では京崎君、発見時の遺体の状態の説明を」

「はい!ご遺体は失血死とのことですが、首と腹部を刺されていました。突発的な殺意というよりも計画的な犯行であった可能性があります。殺害した後、黒のビニール袋にて埋めた。損傷具合から死亡推定時刻はおよそ一週間前であると予想されます。それと同時期に捜索願が出されています。名取とは同じサークルで一つ下の後輩です」

 事件の概要はこうだ。5月12日火曜日、21時16分に本田から電話があった。急に人手が必要になったから途中スコップを買って来てくれ、と。すぐに出た名取は、15分後近くのホームセンタ―でスコップを二つ購入している。供述通り、ホームセンターの防犯カメラには被疑者がスコップを二つ買う姿が映っている。

 そのまま指定された廃工場に行くと、予想外の男が立っていた。

 栄はまた一枚、追加の写真をホワイトボードに出す。バーベキューパーティの一場面。その中の一人、金髪にピアスを開け笑顔でバーベキューを楽しんでいる男だ。その隣には被害者、本田の姿があった。

「彼の名前は木内 充。本田・名取と同じサークルで、名取の証言で第二容疑者としてこれから捜索することになる」

 遠坂は木内の人相を見ながら声を発した。

「それは共犯ってことか?木内が仄めかし、名取が実行した、って感じか?」

「はい、そのようですね。
 廃工場に到着したのは22時30分ごろ。名取の話では、廃工場で待っていたのは本田ではなく木内だったそうです。本田の姿がなかったのでどこにいるのかと聞くと、ポケットから白いナイフを取り出して脅したそうです」

 白いナイフを片手に木内は穴を掘るように指示をした。数時間かけて穴を掘ると今度はどこからか黒いビニール袋を指さし埋めろ、とこう言った。埋め終わると木内はこういったという。

「今日のことは誰にも言うなよ。もし喋ったらただじゃおかねぇ」

 その直後本田の失踪届が提出され、袋のことを思いだしたそうだ。あのずっしりとした、人間一人分ぐらいの重さが妙に頭をよぎった。不安に駆られた名取は同日警察に自首を。

 全容を知った刑事たちはピリッとした空気が走る。

 京崎は木内という男を睨んだ。この話が本当なら、木内は殺人を犯した上に殺人教唆、さらには隠ぺいを企んだことになる。こんな悪人がまだうろつき歩いていることに、怒りを覚えていた。

 栄もまた怒りを含んだ声で、会議室にいる全員を見回しながら言う。

「今回の事件はかなり凶悪です。被害者の名誉のためにも、絶対に犯人を捕まえてください。

 では、今後の捜査を指示します。まず僕と京崎君は現場の廃工場へ向かいます。遠坂さんと氷野君は木内を引っ張ってきてください。そのまま取り調べもお願いします。他捜査員の方々も周辺の防犯カメラチェックや聞き込みをお願いします。以上、解散!」





 栄の号令で捜査員が出払った後、氷野はホワイトボードを眺めていた。考える仕草をしながら手帳とホワイトボードを交互に見やっている。

「何してる氷野。俺らもそろそろ行くぞ」

 遠坂が痺れを切らしたように催促する。

「何か引っかかるんですよね。妙に綺麗すぎる」

「……そうか?おかしい、ってほどじゃないが」

「何かこう、綺麗に揃いすぎているような気がしまして」

「考えたって仕方ねぇだろ、いくぞ!刑事は足で稼ぐんだよ」



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