四ノ宮 勇魚
撮って出しフィルムを全部お見せするnoteをまとめました。ブュッフェのようにお好きなものを楽しんで。
真昼を泳ぐ魚たち、という台を思いついたのは随分前のことだった。 学校は水槽のようで、海があることを知っているのに閉じ込められた狭い世界に辟易していた。集団であることを強いられるのも弱いからだったのだろうか。 少女たちは銀の鱗や鰭の美しさを未だ知らない。だからうつくしい。 今回の個展では、群れからはぐれて(もしくは飛び出して)しまった魚たちの物語を描いた。 傷こそが光を孕むこの世界で、少女たちはどう生きるのかを明かしたかった。 展示内容について 今回展示した写真は7
猫が死んで、恋人と別れ、毎日パニック発作を起こしていたあの地獄から四ヶ月が経った。わたしは生きている。あんなに死にたいと思っていたのに、それでもやっぱり、生きている。 新しい猫を迎え、新しい人たちと出会い、薬を飲んで日々は続く。 母は言った。 貴方の人生は映画や小説みたいね。 わたしの人生は見ていて面白いかもしれない。見ているだけなら、だけど。本人からしたらたまったものではない。天国と地獄を行ったり来たりするのは見た目よりも疲れるのだ。 ところで、新しくアトリエを構え
最愛の猫が死んでから、この世は地獄だと思うようなことが何度もあった。 ありえないくらい哀しい出来事が重なって、わたしは一日に二回発作を起こすようになった。 私は双極性障害と、パニック障害という精神疾患を抱えて生きている。 それを美談にする気はさらさらない。 その疾患のせいで、友人や恋人を何度も失っている。生きづらいことも事実だし、それがきっかけで迷惑をかけることもたくさんある。 だけど、光をまだ、夢見ている。 死んで仕舞えばよかった。死んで仕舞えばよかった。死んで仕
普通になりたい。 ただ普通になりたい。 才能があっていいなといいながら平凡な暮らしがしたい。 毎日発作を起こして泣きながら頭を壁に打ち付けたり 幻聴のせいで耳を塞ぎながら叫ばなくてもいい、 そんな生活がしたい。 誰かと恋に落ちたとき、 自分が爆弾であることをいちいち打ち明けることがない生活がしたい。 相手に負担を強いることを自覚して生きる、そんなことをしなくていい生活がしたい。 わたしと付き合うと一生振り回されて不幸になる、という言葉の呪いをかけられているから、きっとそう
文章がかろうじて打てるうちに ここは地獄です。自分の病気はのせいで大事な人を傷つけてあげく自分は不幸であるかのようなふりをしている。音がたくさん聞こえる、わたしをいじめてた人たちの声がたくさん聞こえる、わたしの、絵や音を見て笑っている、 部屋から出らない。 動くことも食べるかどできなくなって泣いているだけで1日が暮れる。薬を大量に飲むと胃洗浄でまた暴れることになるので腕を切るだけにしとく。 救いを求めていたわたしから何も変わっていなかったことに絶望する。 蜘蛛の糸は
早朝三時に目覚ましをかけて昨日寝たはいいが、色々あって一時に寝たので起きられるはずがなかった。被写体さんからもうすぐ向かうという電話がなかったら普通に寝ていた。危ない。 三時に起きた理由はただひとつ。朝焼けを撮るためだ。 前日見た天気予報は一日雨。果たして。 車で向かっていく間にも、空は徐々に白んでいく。美しい光景を早く見たくて胸が高鳴った。 堤防の急な階段を登ると、そこには虹色の夜明け空が広がっていた。ただ美しかった。呼吸を忘れてひたすらにシャッターを切った。 天
前日早めに寝たのもあって、朝6:00に目が覚めた。外ではとんびが鳴いている。 撮影の集合時間は10:30だったが、時間を無為に過ごすのがもったいないと感じた私は7:35の電車に乗って九鬼へ向かった。 まず切符を買う。Suicaをタッチするところがなくて動揺した。電車の中で切符をチェックされさらに動揺した。切符は思い出に取っておくのでそのままハンコを押してもらった。 九鬼駅は無人駅で、こんなところでまさか降ろされないよな…と思うような何にもないところで降ろされた。 九鬼
これは三重県尾鷲市を訪れた、初めてのひとり旅の記録。 わたしは、基本的にやろうと思ったら即やっちゃうタイプの人間である。せっかくのゴールデンウィーク、どこかに旅をしたいと思っていたところ、とある被写体さんからお声がけ頂いた。 即日にちを決め、即ホテルを予約し、バスを予約し、新幹線を予約した。この間一時間。 やりたい時にやらないと、その時の自分はその時しかいないとおもう。 そんなこんなで当日。 新横浜から新幹線で名古屋まで向かう。東京駅の混雑具合が激しく、ニュースにもなっ
学校の課題で、最愛、と言うタイトルをつけて銅版画を刷った。 うちにいる猫の、いや、いた猫の、銅版画だ。 先生にはデッサンが狂っていると散々な講評をされたけど、うちの猫はそういう顔をするんだ。本当に。先生はそれを知らない。 最も愛おしい、なんて題をつけたのは、後にも先にもこれきりだ。 うちの猫の名前はマリンという。 お迎えしたのは15年前。私が小学二年生の頃。 目が碧く、マリンブルーだったことからマリンと名付けたけど、これはキトンブルーと言って幼い猫特有の目の色だったらし
個展開催に向けて思うこと。 初めまして。 装身具店52Hz.店主の四ノ宮勇魚と申します。 当店は浜辺の宝石と呼ばれるシーグラスを使ってアクセサリーを製作している装身具店です。 シーグラスとは、何年もの時をかけて波に流され、角が丸くなったガラスのことを指します。 通常は砂に揉まれたことですりガラス状で不透明になっていますが、当店では波間で水に濡れた時のような艶めきを再現しています。 さて、個展《海淵の星屑》がいよいよ一週間前に迫って参りました。初めてのことで、わたしも
2023年。 高校二年生から写真を撮ってはや五年。 いろんなことがあった。 いろんな人にあった。 でも、苦悩してよかった。 最近になって、ようやくそう思えるようになった。 私の写真の根源は、《自分の命の証拠が欲しい》。 今までは、暗い海の底から見た空が綺麗であるように、辛い精神状態の時こそが納得のいく写真を撮れると思っていた。 幸せになることが怖かった。 幸せになったら、写真が撮れなくなると思った。 そして実際、ほぼまる一年間、制服の少女がパッタリと撮れなくなってし
何度も、繰り返し夢を見る。 私はウエディングカメラマンとして、新郎新婦が手を繋いで歩いてくる姿を後ろから撮影している。白いベールが目に眩しい。高いヒールを履きこなす美人だということが後ろ姿からでも窺える。 震えないように、手ブレしないように。脇を締めてその事実を受け止めようと、身体が動く。 二人が振り返る。 聖良(せいら)と真人(まひと)。 二人は私の幼馴染だ。 はっと目が覚める。 この頃、何度もこの夢を見る。大学に入っても、二人とは一年に一度くらい集まっている。 別に