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あの日死ななくてよかった

猫が死んで、恋人と別れ、毎日パニック発作を起こしていたあの地獄から四ヶ月が経った。わたしは生きている。あんなに死にたいと思っていたのに、それでもやっぱり、生きている。

新しい猫を迎え、新しい人たちと出会い、薬を飲んで日々は続く。

母は言った。
貴方の人生は映画や小説みたいね。

わたしの人生は見ていて面白いかもしれない。見ているだけなら、だけど。本人からしたらたまったものではない。天国と地獄を行ったり来たりするのは見た目よりも疲れるのだ。

ところで、新しくアトリエを構えることにした。大学を卒業したら結婚するはずだったから、アトリエは二人暮らしの家に作ろうと思っていた。だがもうそんなこともないので、ひとりだけの秘密基地を作ろうと思った。

わたしの鳥の巣。わたしだけのお城。

部屋の家具や食器の趣味はどうしてか別れた彼のそれに似ている。どうしたって残るよな、と思う。二十歳からの二年間は長かったし、大切なものを沢山くれた。今もアトリエで、彼が教えてくれた淹れ方で淹れたチャイを飲んでいる。

でももうわたしは前に進むよ。

そう言葉にできたとき、ようやく笑ってさよならを言えた気がした。

2023/10/26

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