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オレンジの片割れの君へ

今何処にいるかわからない、大事なわたしの、片割れ。
切り分けられたオレンジの様な。同じ水を分かち合った魂だったのだと、今はわかる。

貴方が今どこにいても、どうか、しあわせ、と笑えますように。

きっと貴方はそんなこと、望まないと思うけれど。


貴方は簡単な言葉で、人を惑わすように笑うくせに、どこか危うげなまっすぐさを持っていた。

まっすぐすぎる針がパチンと折れてはじける、みたいな、しゃぼん玉が凍って割れてしまう、みたいな。

貴方のことをずっと、ただ祈っている。


貴方が教えてくれたうたには、名前がなかった。

会えないあいだ、わたしは泣きながら眠る夜をその歌と共に過ごした。

海でギターを弾く時に、貴方はわたしの靴紐でギターのショルダーベルトを縛ってしまったので、わたしは片方だけの靴でひょこひょこと移動するしかなかった。

貴方が生み出す音は、強くて、泣きたいほど痛くて、苦しくて、少し甘かった。

貴方は海に入るとき何も言わなかった。

入るよとか、何の声かけもなく、服のまま、ずぶずぶと、

躊躇いがなかったその入り方に、わたしは少しだけ怯んでしまった。

死を覚悟した人間の潔さに少し似て、帰ることを想定していないようなその思い切りの良さは、昔のわたしのようだった。

貴方の輝きがわたしの目に痛かった。


貴方がまだ、違う名前だったころ、私は腕に傷を刻んでいた。

自分を罰していた。

他の人と違う、異質である自分を切除したいと願って、耳に穴を開け、腕に傷を作ったのだ。

貴方の歌ったうたには波の音が紛れ込んでいて、泣きながら耳をヘッドフォンで塞いで、ひたすら聴いていた。

貴方はわたしの心を救ってくれたんだよ。


貴方に電話している。

何でもいい。貴方が生きていればそれでいいのだ。

貴方の声は、何度も眠れない夜に聴いた声そのものだった。

実在していることに、お互いに驚いていた。

二人ともおんなじことを考えてた。

二人とも、相手に会うのが怖くて、落胆させたくなくて、幻滅が怖くて、でも、初めて会ったとき、抱きしめ合っていた。

貴方の苦しさが欲しい。

全部預けて欲しい。

今書いておかないといけないと思った。

書きたいときに書かないと、後悔するから。
貴方はとても優しくて、とても自分勝手だ。

これもわたしのエゴなのかもしれない。

それでも、偽善でも、貴方を救いたい。

2024/08/04

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