初めてのひとり旅 《3日目》

早朝三時に目覚ましをかけて昨日寝たはいいが、色々あって一時に寝たので起きられるはずがなかった。被写体さんからもうすぐ向かうという電話がなかったら普通に寝ていた。危ない。

三時に起きた理由はただひとつ。朝焼けを撮るためだ。

前日見た天気予報は一日雨。果たして。

車で向かっていく間にも、空は徐々に白んでいく。美しい光景を早く見たくて胸が高鳴った。

堤防の急な階段を登ると、そこには虹色の夜明け空が広がっていた。ただ美しかった。呼吸を忘れてひたすらにシャッターを切った。

天気はなんとか持ってくれた。そこから鳥羽まで厚意で車を出していただいて移動する。気づいたらまどろんでいた。亡くなった家族の、猫の夢を見た。そう言えばあの子の出生地は三重だったな。何が呼ばれて縁があったのかもしれない。

ナビの案内終了のアナウンスで目が覚めた。雨。ぱらぱらと雨が降っていた。鳥羽での撮影はあきらめ、観光することとなった。鳥羽と言えば真珠と海女の町だ。

母へお土産を買って帰ろうと思ったが、やはり観光地。良いものはそれなりに値段が張った。「どこも観光地値段だね、難しいね」などと話しながら駐車場を出ようとすると、交通整理のおじさんに突然話しかけられた。

「真珠やったらここの信号三つ行ったとこ左に行くとあるよ、ミキモトに卸売してるお店が。そこだったら良いもんが手に入るよ」

願ってもない話だった。
おじさんは「突然話しかけて驚かせてごめんなぁ」と言っていたが、情報はありがたい。そこを目指すことにする。

そのお店は、卸売とは言ってもブランドとしてしっかりとした店構えだった。水着兼用のハーフパンツで行ってしまったのが少し申し訳なくなるくらい、良いお値段のする真珠が並ぶ。それでも明らかに良い照りの良さと、ミキモトと同じ質のものだとしたら控えめな値段が際立った。

少し悩んで、モデルさんとそのお母さんと相談して、青みがかったベビーパールのあしらわれた雫型の小さなピアスを買った。プレゼント用に綺麗に包んでもらう時、なんだか少し照れくさかった。

気づけばもうお昼時。近くにあった定食屋さんに入って、手ごね寿司というものと伊勢うどんを食べた。手ごね寿司とは、漬けマグロ丼とちらし寿司の合わさったようなものだと思ってくれれば良いと思う。
伊勢うどんは太くてしっかりとしたうどんに甘辛い醤油だれを絡めていただく。薬味のねぎが素朴な味に効いて美味しくいただけた。

外はすっかり晴れていた。そのままフェリー乗り場まで向かって降ろしてもらう。ここまで連れて来てくださったモデルさんとそのお母さんに、深く頭を下げた。写真をしていなかったら出会えなかった縁。本当にありがとうございました。

ひとりになり、フェリーのチケットを買って出発時間を待つ。塩サイダーというものがあったので買って船で飲んでみることにした。爽快な炭酸の後にかすかに塩味がする。美味しい。

外の写真を撮ったり、データを整理したりしているとフェリーの乗船時間はあっという間に過ぎ、伊良湖港に到着した。

伊良湖港からはリムジンバスで約五分のホテルに向かった。ホテルの窓からは海が見える。快晴に照り返す海はいつもより生き生きとして見えた。

食事前に、疲れた体を温泉で癒やした。久しぶりの湯船。幸せだった。露天風呂からも海が見えるのだが、あまりに風が強くて温泉が波立ってしまい、それどころではなかった。意地でも海を見ながら温泉に浸かりたかったのでしばらく顔に張り付く髪の毛と格闘しつつ満喫した。

荷物を少しでも減らすため、もう着ない服やお土産を段ボールに詰めて送ることにした。お土産を選ぶ時、渡す人のことを考える時間が結構好きだ。何を渡せば喜ぶかな。あの人は可愛いパッケージのものにしよう。この人は地元でしか取れない面白いもの。それぞれの生活にあったお土産を選ぶのは、大変だけどとても楽しい。

夕食はカニの食べ放題がついたビュッフェスタイルだった。周りが家族でわいわいと蟹の殻を割る中、一人で大きなテーブルにつき真剣な顔で蟹と向き合う私はやはり少し浮いていたかもしれない。正直なことを言うと、少し寂しかった。

明日が最終日。今日は朝から活動したので、これで眠ることにする。

おやすみなさい、また明日。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?