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100日目。喪失を抱えて生きる、ということ。

100日目。喪失を抱えて生きる、ということ。

母が旅立って、今日でちょうど100日が経った。

百箇日の墓前法要を営ませていただいた昨日。石塔には、真新しい文字で母の名前が刻まれていた。父の名前と母の名前、ふたりが18年ぶりに並んでいるのを見て、ここが私の人生のひと区切りなのだという気持ちが湧いてきた。折しも熊本は、あちらこちらで豪雨災害が頻発する梅雨のまっただなか。母がひとりで暮らしていた地域は、ともすると孤立集落になりかねないところでもあ

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Morning Routine

<Morning Routine わたしの朝習慣>

病室で迎える2日目の朝(この病院における日中の巣ごもりは38日目)。ゆうべのうちに夕食と朝食と昼の弁当を用意してきたので、4時起きが常だった平時の朝より、むしろのんびりとしています。動画じゃないけど、はやりのMorning Routine風に綴ってみる(つまり、暇なのか?笑)。

やわらかな光が差し込む南向きの部屋。カーテンと窓を開け、さわやか

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スズメとおはな

スズメとおはな

「おはようございます。今日はどぎゃんですか?」若いのに熊本弁丸出しの作業療法士(以下、OT)がやって来ると、一瞬、母の表情が華やぐ。病院は来院者だけでなく、スタッフもマスク必須なので目元しか見えないけれど、ジャンルでいえば体育会系アイドル風味(そんなジャンルあるのかどうかは不明)。初めてのリハビリで「祖母も美容師だったんですよ」と話してくれたらしく、母も一気に親近感を覚えたらしい。プロだな。日中は

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カレーと睡魔。

カレーと睡魔。

◉3月6日
「カレー食べたいなぁ。自分で作ったカレーが食べたい」。母が昨日、そうつぶやいていたのでこっそり病室へ持ちこんでしまおうと、朝からカレーをこしらえる。スパイスこねくりまわす系ではなく、市販のルゥだけを使ったごくごくフツーのカレー。寝起きのぼーっとした頭をシャキッとさせるにはほどよい工程とほどよい香りではあるけれど、そういえばランチをカレーにした日は、必ずといっていいほど1時間後に睡魔にお

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カットメロン

カットメロン

◉3月7日

この日はベッドで森林浴。不安ばかりあおるテレビやラジオに飽きてきたので、というか、母に不安を募らせても仕方がないので、今朝はぜーんぶ手放して小鳥のさえずりだけが響く病室にしてみる。

ここ数日、傾眠傾向の母なのだが、小鳥の声が響きはじめるとパッと目を開け、きょろきょろとあたりをみまわし、こちらを向いてほほえんだ。作戦成功!!声を絞り出し、「ここに来てよかったね」「気兼ねせんでいいもの

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春。

春。

◉3月8日

看護師さんから春の贈りもの。傾眠が続いていた母だが、「お母さん。桜だよ、桜!!!」と声をかけると、はっと目を覚ます。目をキラキラさせて、桜の枝に手を伸ばすその姿に、ちょっぴり涙があふれそうになった。

◉3月9日
ラベンダー精油をたらしたお湯で顔や手足を拭き清め、「ハイビーチ」のアロマクラフトでつくったブレンドオイルを使って手足のトリートメント。仕上げに、鹿児島の大自然で育まれたホー

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透明な野鳥もいるらしい。

透明な野鳥もいるらしい。

◉3月15日
先日、起きしなに「望遠鏡持ってきた?」と問いかけてきた母。毎朝、目覚めのタイミングから鳥のさえずりのYouTubeをBGMにしているからだろうか。おそらく脳内の自分イメージは年末、双眼鏡自慢をしてきたこの表情に違いない。

ならばリアル野鳥を呼んでしまえ!と思い立ち、デコポンの上をスライスしてベランダに置いてみる。ついでに卵ボーロもならべとこ。

一瞬、お使いに出たすきに、ボーロが

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いのちのバトンと、話題の○○

いのちのバトンと、話題の○○

◉2月21日。思いのほか、体調の変化が早かったこともあり、2つの病院の先生方や地域連携センターの力も借りながら、緩和ケア病棟への転院を模索してきたこの1週間。相談先の病院から、「検討会が今、終わりました。水曜に病室をご用意できます」という電話をいただいたときには、涙が止まらなかった。正直、間に合わないかもしれないと思っていたから。

「緩和ケア」とは、病の治癒を目指すのではなく、痛みや不安をやわら

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お食い納め!?

お食い納め!?

◉2月17日。在宅医療・看護のサービスを併用しながら、少しでも自宅で生活できれば生きる気力も戻るのではないか。そんな風に思っていたものの、この2日間の母の様子を見ていると、ひとり暮らしは厳しそうだと感じた。母が寝ている間に病院へ電話し、「一度診ていただいて、必要そうなら入院等もご検討いただけないでしょうか」と相談。いつでも入院できるようにと備えていた荷物の中身をもう少し補充し、朝食を作る。

家で

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食べることは、生きること。

食べることは、生きること。

◉2月14日夕刻。退院の日取りが気になって主治医に確認の連絡をいれていたところ、「実はさきほど、遠心分離機にかけていた腹水の結果がわかりました」と折り返し。「チュウヒ細胞というのが出まして・・・」。ん?チュウ、ヒ??耳慣れない言葉に戸惑いつつ、ググってみる。中皮細胞、中皮腫、アスベスト被害、想像もしなかったワードの連続に混乱しつつも、いろいろと検索して、ぼんやりと把握。

とりあえず、病院へ。向か

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怒濤の1週間。

怒濤の1週間。

気づけば、検査入院から1週間が経っていた。生検のための入院は、当初3日の予定だったが、検査によって起こりうるリスクのひとつと聞かされていた「気胸」が起きてしまい、治癒の時間が必要となったのだ。
(※医療ミスではありません)

◉2月6日。検査のための入院。病室から検査棟まで、介助や車椅子が必要ですか?と尋ねられ、「大丈夫です。歩けます」と母。けれど、思いのほか遠かったのか、検査棟に着く頃にはもうぐ

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せんだごの思い出

せんだごの思い出

マリモみたいな形をした、「せんだご汁」。ジャガイモデンプン由来のお団子は、ふわっとしているのにモチモチしていて、モチモチなのに歯切れが良くて。すいとんとも米粉だんごともちょっと違う、なんだか不思議な食感のお吸い物。これが、私にとっての、おふくろの味だ。

皮を剥いたジャガイモをすりおろし、さらしで絞って液体をボウルのなかへ。しばらく置いて上澄みを捨て、ボウルの底にたまった白いデンプンと先ほど絞った

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