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カットメロン

◉3月7日

この日はベッドで森林浴。不安ばかりあおるテレビやラジオに飽きてきたので、というか、母に不安を募らせても仕方がないので、今朝はぜーんぶ手放して小鳥のさえずりだけが響く病室にしてみる。

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ここ数日、傾眠傾向の母なのだが、小鳥の声が響きはじめるとパッと目を開け、きょろきょろとあたりをみまわし、こちらを向いてほほえんだ。作戦成功!!声を絞り出し、「ここに来てよかったね」「気兼ねせんでいいものね」とつぶやいた今朝。母の頭の中には、去年の今頃ふたりで出かけた椿公園の風景が広がっているはずだ。

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小鳥のさえずりが功を奏したのかどうかはわからないが、午後になり、突然こんなことを言い出した。

母「メロン」
私「んあ?なんて?」
母「メロンが食べたいな」

4〜5年前に話題になった野々村代議士ばりに、聞こえないふりをしようと思ったけれど、ここまではっきり言われると、聞こえないふりもできないか。運がいいのか悪いのか、臨時休校の娘たちはショッピングモールに出かけているし・・・ということで、カットメロンをオーダーする。

数時間後。レシートと共にやってきたのは、がっつり編み目のはいったメロンで、一瞬たじろいだ。それでも、「メロン!?ありがとう!」と目をキラキラさせる母を見ると、ま、いっかという気持ちにもなる。これから何年もかけてやるつもりだった、40ン年分の恩返しを今、濃縮してやっていると思えばね。しかしまあ、丸ごとフルーツがやってくる想定などしていないわけで。もちろん、ナイフなんてないわけで。結果、こうなる。

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どう見ても、カラスにやられたあとだ。一番完熟した芯のところだけをスプーンですくって食べさせたら、母が満面の笑みを見せてくれた。

「バカとハサミは使いよう」っていうけれど。工作ばさみで数千円のメロンをカットするのは、後にも先にもこれだけ・・・のはず。





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