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せんだごの思い出

マリモみたいな形をした、「せんだご汁」。ジャガイモデンプン由来のお団子は、ふわっとしているのにモチモチしていて、モチモチなのに歯切れが良くて。すいとんとも米粉だんごともちょっと違う、なんだか不思議な食感のお吸い物。これが、私にとっての、おふくろの味だ。

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皮を剥いたジャガイモをすりおろし、さらしで絞って液体をボウルのなかへ。しばらく置いて上澄みを捨て、ボウルの底にたまった白いデンプンと先ほど絞ったジャガイモを混ぜて一口サイズのお団子に丸めたら、薄口醤油で調味した出汁に浮かべてひと煮立ちさせ、刻みネギをあしらってできあがり。

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それなりに手間と時間がかかるので、せんだごを作るのは、母の仕事が休みの日。つま先立ちして台所仕事をのぞき見たり、一緒に団子を捏ねたりするのが、楽しみでしかたなかった。


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そもそも、せんだご汁は天草の郷土料理。イモを洗って取り出したデンプンを“せん”と呼ぶという説や、キリスト教の布教に訪れた外国人宣教師によって伝えられたから(宣教師の「せん」をとったらしい)という説もある。

宣教師…ではなく、祖母から母へ、母から私へと伝えられたわが家のせんだご汁は、ジャガイモ由来。これが当たり前だと思っていたら、同じ天草でも地域によって微妙な違いがあるらしく、実はサツマイモでつくるほうが多数派なのだそうだ。エリアによる違いなのか?世代による違いなのか?はよくわからないし、ジャガイモ由来とサツマイモ由来では、食感も味わいもまったく異なるが。いずれもうまけりゃそれでよし、だ。


下田の鬼海ヶ浦にある「ブルーガーデン」の「せんだご」は、サツマイモと紫芋、カボチャとグリンピースで作ったやさしい甘さのスイーツ仕立て。天草のキリスト教文化をつたえるべく、「教会のステンドグラス」を思わせる4色だんごにしたのだそうだ。ぜんざいに浮かべても、きな粉と黒蜜をかけてもおいしいので、打ち合わせやノマド仕事のお供でオーダーすることも多々。お供と言うより、それ目当てと言ってもいいかもしれない。


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◉2月5日。2日前の胃カメラで胃の異常が見つからず、この日は大腸カメラの検査。11年前の放射線治療による炎症は多少あるものの、腹水につながるような腫瘍は認められなかった。やや狭窄が見られるのは、放射線の晩期後遺症だけでなく、外側にある腫瘍等によって圧迫されている可能性があるという見解。消去法で可能性をひとつずつ潰していくというのはわかるけど、うむぅ。また振り出しに戻る。という心境。

お店でごはんを食べる気持ちにもなれず、お弁当を買って帰ることに。せめて気分転換でもと、下田温泉の足湯に寄り道。天気もいいので、公園でお弁当を広げてみる。ちょっぴり風はあるけれど、日だまりはぽかぽかしていて「ああ、こうして食べるとおいしいね」と母。

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気分がよさそうだったので、「ちょっとだけコーヒーでも飲んでいく?」と「ブルーガーデン」へ寄り道。なんと、母はこの店に来たのが初めてだった。窓辺のカウンターに、導かれるように座る母。コーヒーとせんだごをオーダーし、2人でシェアして味わった。

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「ああ、おいしい」「海は、どれだけ見ていても飽きないね」。ちょっとの寄り道のつもりが、1時間ほど経っていた。店を出て、デッキに佇み、名残惜しそうに海を眺めていた母はひと言、「ああ、元気でいられるってしあわせね。ありがとう」。そう、つぶやいた。母の目に、涙がにじんでいた。


この日の海を、母も私も、忘れない。

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