想識

さて、兄弟たちよ、闇の業は脇へ置き、光の業に取り掛かるとしよう。

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シーモアグラース

 シー モア グラース。鏡をじっとのぞき込めば、きっと自分の身体が、自分の意志とは関係なく生きていることに気がつくはずだ。口を開いて鏡をのぞき込んで、鏡に映る口をのぞき込む。そうすれば、舌が脈動しているのが見て取れるはずだ。人の身体は生きている。意識せずともだ。  舌は無意識でも動いている。それを知ったとき、言葉の意義は少し変わってくるように思われる。舌が意識とは関係なく動いていること、予めリズムを持っていること。それはつまり、人間は無意識のリズムを常に刻んでいるということ

    • 2019年に読んだ本(記録用)

      2019年 ※Twitterに記録していたものだけ5月) ・姑獲鳥の夏/京極夏彦 6月) ・城/フランツ・カフカ ・アリス殺し/小林泰三 ・パンドラの匣/太宰治 ・水中都市・デンドロカカリア/安部公房 ・シーシェポスの神話/カミュ ・ペンギンハイウェイ/森見登美彦 ・葉桜の季節に君を想うということ/歌野晶午 ・夏と花火と私の死体/乙一 ・人間の土地/サン・テグジュペリ ・創作の極意と掟/筒井康隆 ・ドリルホール・イン・マイ・ブレイン/舞城王太郎 ・虚人たち/筒井康隆 ・キッ

      • さあ、気ちがいになりなさい/フレドリック・ブラウン;星 新一/訳〈早川書房〉③〈完〉【1672字】

        1)町を求む【P-157】おれはいま、そんな町を探しているところだ、もう遊んでいるのには飽きてもきた。  あなたの町など、どうだろうか。それをきめるために、この質問に答えてくれないかね。この前の選挙の時に町の政治をよくしようなどと考えて、候補者をなっとくの行くまで検討したかね。それとも、ポスターの大きい候補者に投票したかね。えっ、なんだって。投票所までも行かなかったのか。  裏、裏、裏。裏で蠢くものを想像しなければならない。あなたの町を治める人は、あなたの国を治める人は、あ

        • わけもなく悲しい。

           わけもなく悲しい。何も考えられない。  というお気持ちであるが、無論、本当に何も考えられないわけではなく、こうして文章なども書けている。では、なぜ『何も考えられない』などと感じるのかが問題となるが、それは、考えることすべてに何の意味もないように感じるからである(ように思う)。当然、いまここに書いている言葉にも何の意味もないと思っているし、何の意味もないことを確認することにも何の意味もないと思っている。では何故書くのかと問われれば、考えること自体に意味がないからこそ、何らか

        シーモアグラース

        • 2019年に読んだ本(記録用)

        • さあ、気ちがいになりなさい/フレドリック・ブラウン;星 新一/訳〈早川書房〉③〈完〉【1672字】

        • わけもなく悲しい。

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          13本

        記事

          『すべての、白いものたちの/ハン・ガン;斎藤真理子=訳』②終.

          2.彼女[P-63]雪が降りはじめると、人々はやっていたことを止めてしばらく雪に見入る。〈中略〉音もなく、いかなる喜びも哀しみもなく、霏々として雪が舞い沈むとき、やがて数千数万の雪片が通りを黙々と埋めてゆくとき、もう見守ることをやめ、そこから顔をそらす人々がいる。                            ──『雪』──.  人々が見入る雪。同じ雪を見ていても思い起こすことは皆、別様のものだろう。雪には喜びも哀しみもない、だが、そこに人は喜びや哀しみを見出す。舞

          『すべての、白いものたちの/ハン・ガン;斎藤真理子=訳』②終.

          『すべての、白いものたちの/ハン・ガン;斎藤真理子=訳』①

          1.私[P-20]何が始まったのかはわからないまま、まだ、二人はつながっている。血の匂いがする沈黙の中で、体と体の間に真っ白なおくるみをはさんで。                         ──『おくるみ』──.  「白」、そこから感じ取れるイメージは、私にとっては「沈黙」だ。  沈黙。静けさ。なぜそうしたイメージを持つのか、それは、白は始まりを感じさせるからだと思う。聖書の『この初に言があった。言は神と共にあった。すべてのものは、これによってできた。』という言葉はあ

          『すべての、白いものたちの/ハン・ガン;斎藤真理子=訳』①

          『ろうそくの炎がささやく言葉』管啓次郎・野崎歓 編〈勁草書房〉①

          内容紹介言葉はそれ自体としては無力だが、慰めにも、勇気の根源にもなる。ろうそくの小さな炎のもとで朗読して楽しめる詩や短編を集めた、31人の書き手によるアンソロジー。「東日本大震災」復興支援チャリティ書籍。 朗読のよろこび、東北にささげる言葉の花束。31人の書き手による詩と短編のアンソロジー。        ──「BOOK」データベースより──. ろうそくがともされた 十 谷川俊太郎ろうそくがともされて ここがうみのむこうのくにになった まっしろいとらをつれて じょおうがか

          『ろうそくの炎がささやく言葉』管啓次郎・野崎歓 編〈勁草書房〉①

          『詩集 愛について/若松英輔』〈亜紀書房〉.

           愛の喪失と永遠。  決して切り離すことのできない、愛の二つの性質。それを克明に描き出した素晴らしい詩集です。愛の本質を追求し、読み手を愛の萌芽へと導く言葉たち。感銘を受けました。この詩集、読まない手は、ありませんよ──。 言葉で おもいを 告げるのも いいけれど 気づかれないように ひとりで あなたをおもって 祈っているのもいい                 ──『光』より──. あなたをおもって 祈っているとき わたしのおもいは あなたのそばにある 大事な人と

          『詩集 愛について/若松英輔』〈亜紀書房〉.

          さあ、気ちがいになりなさい/フレドリック・ブラウン;星 新一/訳〈早川書房〉②

          1)ノック“Knock”【P-89】[上l-3]「地球上で最後に残った男が、ただひとり部屋のなかにすわっていた。すると、ドアにノックを音が……」  想像力を膨らませる、無限に続く物語。さあ、想像しよう。ノックをしたのは誰だろうか? 2)ユーディの原理“The Yehudi Prieciple”【P-113】[下l-6]「わかるとも。ひとつのことを除いてはだ。そもそも、そのユーディってだれのことだ」  世紀の大発明、「自動制御自己暗示式副震動性超加速装置」。存在しない小人

          さあ、気ちがいになりなさい/フレドリック・ブラウン;星 新一/訳〈早川書房〉②

          さあ、気ちがいになりなさい/フレドリック・ブラウン;星 新一/訳〈早川書房〉①

          1)みどりの星へ“Something Green”【P-18】[下l-3]「見たかい、ドロシー。あれが緑色さ。おれたちが行こうとしている星のほか、どこにもない色なんだよ。宇宙でいちばん美しい色だよ、ドロシー……  人は、自分の信じるものの為ならば喜んで気ちがいになる。自分の信じるものこそが、己の絶対的な価値観なのだから。世界はその価値観を中心に廻る。廻っている。誰しもがそうなのだ。──誰しもが気ちがいなのだ。別の気ちがいな価値観に殺されない限り、人は自分だけの気ちがいな世界

          さあ、気ちがいになりなさい/フレドリック・ブラウン;星 新一/訳〈早川書房〉①

          天国と、とてつもない暇/最果タヒ②〈完〉【1529字】

          まずしさは、こころのまずしさは、誰かを傷つけた回数でなくて、きみがきみを諦めた回数で決まる。左手があつくなってそのうち、私は、朝のひかりに気づく。              ──『重力の詩』より──. きみがきみを諦めるとき、きみは時をとめようとするけれど、せかいは変わらず流れていく。きみがきみを諦めるたび、きみとせかいの時間はずれていく。 息を吐くたび、空き缶を潰すように世界が私に押し寄せて、 地平線、ひびわれた、 隙間が遠くに見える。               

          天国と、とてつもない暇/最果タヒ②〈完〉【1529字】

          天国と、とてつもない暇/最果タヒ①【1277字】

           多様なテキストデザインによって展開される詩集。表現されるは無数の愛。変幻自在の愛。詩集三部作を経てたどり着いた、謎の詩人 最果タヒの新境地。 来年まで私がもちこす空白はちゃんとあるのだろうか、 ないなら、だれかを、思い出を、忘れなければ、 次の夏を待つことから、よろこびたちが立ち去ってしまう。              ──『斜面の詩』より──. 散りゆく世界、積もる白、私の人生、私の、 私への、果てのない、果てのない優しさ。            ──『自分

          天国と、とてつもない暇/最果タヒ①【1277字】

          『水妖記(ウンディーネ)/フリードリヒ バローン ド ラ モット フーケー』〈岩波文庫〉【1400字】

          1)作品紹介 湖のような青い瞳、輝くブロンド。子供をなくした老夫婦のもとにどこからか現れた美少女ウンディーネは、実は魂のない水の精であった。  人間の世界にすみ、人間の男と愛によって結ばれて、魂を得たいと願ったのだ。──ヨーロッパに古くから伝わる民間伝承に材をとった、ドイツロマン派の妖しくも幻想的な愛の物語。                      ──本書表紙の紹介文より──. 2)所見 とんとん拍子に進んでいく、少女「ウンディーネ」と騎士「フルトブラント」、2人の恋の

          『水妖記(ウンディーネ)/フリードリヒ バローン ド ラ モット フーケー』〈岩波文庫〉【1400字】

          白暗淵/古井由吉(2019年特に印象に残った本⑤)【874字】

          『白暗淵/古井由吉』1)作品紹介 静寂、沈黙の先にあらわれる、白き喧噪。さざめき、沸きたつ意識は、時空を往還し、生と死のあわいに浮かぶ世界の実相をうつす。言葉が用をなすその究極へ―。現代文学の達成、最新連作短篇集。                     ──「BOOK」データベースより──. 2)所見 「2019年特に印象に残った本」ということでの『白暗淵』ですが、感覚的な要素が非常に強い小説なのできちんと紹介できる自信はありませんが……書いていきます。 始まりは、白い

          白暗淵/古井由吉(2019年特に印象に残った本⑤)【874字】

          『ウェルギリウスの死/ヘルマン・ブロッホ』“Der Tod des Vergil/Hermann Broch”(2019年特に印象に残った本④)【1439字】

          1)第Ⅰ部 水ー到着  運命の道のかたちづくる円環は無の深淵を囲繞している。我々は皆、神の被造物であり、借り物の名で生きる仮初めの存在である。  人間の行動、性質全て神に授けられたものであり、与えられたものを消化して死ぬだけの存在だ。  生まれ死ぬ人生の円環、その中心にある無の深淵の中に、人は何かを見出すことができるのだろうか────。 2)第Ⅱ部 火ー下降  渦巻きめぐる問いはいつも地上の存在のうちにのみ、その終着点を見いだす。  一切の認識と行為と存在を包括して奇

          『ウェルギリウスの死/ヘルマン・ブロッホ』“Der Tod des Vergil/Hermann Broch”(2019年特に印象に残った本④)【1439字】

          『また終わるために/サミュエル・ベケット/訳高橋康也,宇野邦一』〈書肆山田〉②〈完〉【1089字】

          1)遠くに鳥が【P-64】[l-1]おれは自分の人生を生きようとした、だめだった、あいつの人生しか生きられなかった、ひどい人生さ、あいつはこんな人生じゃないって言った、  精神から見て、肉体は好き勝手なことを行うひとつの謎でしかない。それは《おれ(=精神)》の意志に反して(関係なく)行動する。そして、精神が肉体の行為を嘆くとき、肉体もまた精神の不在を嘆くこととなる。それは即ち魂の不在であり、自己の人生における自己の不在なのだ。 2)見ればわかる【P-67】[l-3]語られ

          『また終わるために/サミュエル・ベケット/訳高橋康也,宇野邦一』〈書肆山田〉②〈完〉【1089字】