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死の引力【3851字】

Ⅰ)生物の根源的本能 死。それはあらゆる生物が根源的に忌避し、恐怖するもの。それは純粋な生存本能に起因しているはずだ。どんな生物もその本質として、種を受け継いでいくバトンリレーの走者としての役割が刻み込まれていることに疑いはないだろう。種としての全体性を存続させるために個々が命のバトンをつなぎ、そのなかでそれぞれの個体は生と死を延々と繰り返していく。  だからこそ生に不可欠な三大欲求は生物にとって避けられない強烈な欲求となる。それは純粋な生存本能に起因する欲求なのだから。

ヘルマン・ブロッホ『夢遊の人々』─多重な価値世界に苛まれる現代人─【7410字】

【お気の毒Tips:(Ⅳ)、(Ⅴ)に記事の本旨がまとまっています(目次から飛んで先に読むことを推奨)】 https://www.amazon.co.jp/夢遊の人々-上-ちくま文庫-ヘルマン・ブロッホ/dp/4480420061 『ウェルギリウスの死』を読んで大変な感銘を受けてからというもの、ヘルマン・ブロッホという作家について興味が尽きないなかで本書を手に取ったのだが、率直な感想としては非常に難しい作品だった。というのも、どうやらブロッホが考える長編小説の意義から誘起さ

『エズミに捧ぐ/J.D.サリンジャー』【2610字】

『エズミに捧ぐ』は大きく分けて三つの話で構成されている。①結婚式の報せを受け取った主人公の語り、②主人公とエズミの出会いの回想、③エズミに捧げる短編の体裁をした汚辱の話だ。  基本的には上記の構成の話となる。が、さすがにこれを素直に受け取る読者はまずいないことだろう。解釈は以下のものが考えられるように思う。 (A)エズミの結婚式の報せを聞いて書かれた(③のみ虚構)。 (B)エズミとの出会いの後まもなく書かれた(①③が虚構)。 (C)②と③の出来事の後に書かれた(①のみ

焰(詩)【132字】

暖めたいのか 焼き尽くしたいのか それすらわからない 虚なゆらめき 手を伸ばして届かないならそれでいい すべては幻想なのだから 此処にあるのは暗闇だけ 溶け落ちて氷となった滴 感情の残滓 償いはできない 燃え拡がる未来 手遅れな今 過去は死んだ 安らかな眠りは、永遠に失われた (125文字)